02




アクマに受けた傷の回復が思ったよりも早かった。もう傷痕すら残っていない体に我ながらぞっとする。恐ろしい再生能力だと思いつつも、これに頼っている自分がいる。頼っている分、自分の寿命とか命とかそういうものが削られているが、俺は戦うことを止めなかった。(むしろ止める気なんてさらさらない。)
左胸の梵字が、いくら様相を変えようが。


「お、ユウじゃーん!怪我はもういいさ?」


呼んでもないのにこちらへと食事を乗せたトレーを片手にラビがやってきた。その後ろにはモヤシがいて、会いたくもない奴らに食べようとしていた蕎麦を目の前に舌打ちをした。


「チッ」

「ちょっと今何で僕の顔見て舌打ちしたんですか」

「してねぇよ」

「いやしましたよね」

「してねぇっつってんだろモヤシ」

「なんだとこのパッツン」

「わーっ!お前ら顔合わせる度喧嘩するなって!!」


殺気を飛ばしかけたところでラビが間に入ってきた。俺としては早々にこのモヤシを葬り去りたかったが食いかけの蕎麦があったため少し思い留まった(せっかくの蕎麦を無駄にはしたくない)。そしてこれまた座ってもいいだなんて一言も言ってもないのに目の前にラビとモヤシが座り、当たり前のように俺の前で食事をし始める。


「相変わらずユウは怪我の治りが早いさー」

「きっと体の構造がどっか決定的に違うんですよ、間違いなく」

「あ?」

「あぁ?」

「もうメシ時くらい止めようぜ…」


厭きれ混じりに言ったラビをそのままに俺とモヤシはしばらく睨み合っていたが、ふとラビがモヤシを見つめて首を傾げた。


「あれアレン。お前この間の怪我はもういいさ?」

「へ?あ、この前のやつですか?」

「めっちゃ痛そうだったじゃん」

「あぁ、そうなんですけど…。なんか思ったより早く治ったんでふ」

「へぇ、まぁそれだけ食ってれば治らないもんも治るか…」

「ふぁい?」


胸やけがする程の量を一気に口に含んだモヤシ。モヤシの横にはカートに乗る分だけ乗せられた食い物が溢れていて、これが一食分でそれでも足らないというから寄生型は恐ろしい。(それでもモヤシ体型は成長しないが。)モヤシはそれを飲み込み、「美味しい」と満足そうに言うと次の食い物をがっつり掴んで今度はラビに首を傾げる。


「そういうラビも…、この前のはもう大丈夫なんですか?」

「この前の?ん、全然平気。」

「でもあれ、縫ったんですよね…?」

「んー、そうなんだけど…、同じく思ったより治りが早かったってヤツ。ホラ。」


本当だ、とラビの縫ったらしい傷痕をモヤシが見ながら「あ、そう言えば」と、また始まった会話を流し俺は蕎麦を啜った。


「………」




「新人?入ってないけど」


先日の報告書を渡すついでにコムイに新しいエクソシストが入ったかを聞いた。昨夜、俺の前に現れたやつの容姿も交えながら聞いたが、コムイは少し思い出すようなフリをして首を振るだけだった。


「なになに。誰か見たの?」

「知らないならいい」

「ぶー、教えてくれたっていいじゃないか」


適当なやりとりをしつつ、コムイからまた新しい任務資料を受け取り、それをぱらぱらと捲って任務の概要を頭に入れる。最後に何点か注意事項をコムイから受け、司令室を出ようと踵を返したその時、「あぁ、神田くん」とコムイが俺に話しかけ、俺は目だけそちらに向けた。そしてコムイはにっこりと目を細め、両肘を机に着いてその上に顎を置いた。


「僕のところでは入ってないよ」

「…?」

「新しい子。」


念を押すように言われたその言葉に、それはさっきも聞いたとだけ残して俺は司令室を出た。


「僕のところでは、ね…」


最後に呟かれた言葉は、俺の耳には入ってこなかった。


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