01


アクマに受けた傷の熱を感じながら、俺は夢を見ていた。
見たことも感じたこともない空間。知らない場所。

(またこの夢か。)

目に映るもの全て見たことも聞いたこともない。知らない物が回りに溢れてる空間。そんな空間に俺は一人、ただただ寝ている。そしてどれくらいそうし続ければいいだろう、いつもふと現れる女がいる。俺と同い年くらいの、一人の女。名前すらわからない女を俺は毎回(この夢を見るたびに)抱き締める。女は俺の腕の中で恥ずかしそうに、幸せそうに笑っていて、腕の中で消える。

光となって消えた女を、俺は何故か必死に探す。しかし見つからない。

女が消えた空間は闇に包まれ、俺はそれを振り払うように女の名前を呼ぼうとした。すると世界は切り替わり、見慣れた戦場を俺に見せる。砂埃、アクマの残骸、俺の戦ってきた跡。そしてそれを流し見た後、唐突に飛び込んでくる映像。その映像、風景に、俺の心臓は止まりかける。いや、止まる。何故なら、飛び込んできた絵図は、アクマの剣に刺される女の姿────




「…ッ、」


アクマに受けた傷を自己再生しながら、俺は傷口に温かい何かを感じて目を覚ました。最初に飛び込んできたのは見慣れた医務室の天井。そして、知らない、誰かだった。


「…え…、なん、で……、」


短く切られた髪に性別を言い当てるの難しい。しかし揺れた髪は細く柔らかそうで、それを包む顔のラインも丸い。体つきは小さく、女の体型に見えるのに何故か服装は男物だ。そしてその胸元には、ローズクロスが光っていた。


「誰だ、テメェ…」

「ボク…、僕は…」


誰だと自分で言った言葉に違和感を感じた。なぜなら、知っている。俺はコイツを何処かで、見たことがある。(この顔は、夢で)
俺が目を覚めた事に驚いているのか、そいつは俺を見て、丸い目をこれでもかという程に見開き瞬きを繰り返していた。そう、その顔だ、と体を起こそうとしたその時だった。


「うぐっ…!」


いきなり視界を柔らかい何かに塞がれ、それが先程まで俺が使っていた枕だとわかって振り払えば、先程まで俺の目の前にいた人間が居なかった。代わりに医務室の扉が派手に開け放たれ、廊下をぱたぱた走って逃げる音が聞こえて(一度べちゃりと音がした)、足音は消えた。


「……なんだったんだ…」


そう一人ごちに呟いて、消えた足音の先を見つめる。(今、絶対こけたな…)

知らない人間だった。そう、知らない人間だったのにどうしてか知っている気がした。何故なら、あれは夢に出てきた女の顔そのものだった。いや、でも先程見た奴は自分の事を「ボク」と言っていた。男、なのだろう。そして胸元にローズクロスを提げてもいた。


(エクソシスト…か…?)


一瞬にしてわからない事が押し寄せたが、どうも追い掛けて問い質す気にはなれなかった(あんな派手に逃げてコケられても)。それよりも、夢に出てきた女そっくりのあの顔に、俺の心臓は少なからず動揺していた。


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