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ナマエは図書館で借りれるだけ借りた本を広げて黙々と読んでいた。俺はそんなナマエを出窓に腰掛けかれこれ三時間ぐらい見続けている。図書館が7時に閉館して家に帰って夕飯を終えたのが8時。それからもナマエは本を読み続け、その間に俺が風呂に入って上がっても読み続けていた。ノートに色々書き写しているようだが、ナマエの表情を見る限り答えはまだ出ていないようだ。そんなナマエに俺は何処か納得のいかない気持ちを抱えていた。


「なんでそんな必死に読んでるんだよ。」

「…神田くん帰りたくないの?」

「帰れるなら帰る。」

「でしょ。大丈夫、きっと何か見つけるから。」


と言ってナマエはにこりと俺に微笑み、本に戻った。
…帰る帰れないの問題は俺個人のものなのに、なぜナマエがそこまで食い付くか。まぁ、ナマエが急に現れた身元正体共に不明の俺を追い出したい気持ちもわかる。しかも今後の生活を考えれば、ただの学生であるナマエに俺一人を養うのは無理がある。ちゃんと理解している。そう、理解できているはずなのに、俺を教団へと帰す方法を必死で探しているナマエを見ると、なぜか納得のいかない気持ちになった。俺の代わりに色々探してくれているナマエの姿に、苛立ちさえも感じていた。

帰れるのなら帰りたいという気持ちに嘘はない。でもナマエが必死になって俺を帰そうとする姿は見ていて腹が立つ。よくわからないが、その姿に舌打ちさえも打ちたくなる。そしてなぜか俺は、あの日の夢を思い出していた。ナマエと一緒のベッドで寝たあの日の夢。夢の中で、いつもの生活に戻っていた俺は、いつもの生活の中で誰かを探していていた。見知っている顔の中で、誰かがいない、と。そう、


ナマエが居ない。







殺気に近い視線を感じて俺は顔を上げた。顔を上げて視界に入ったのは机に突っ伏して寝ているナマエの姿と深夜二時を指した壁時計。机に散らかっている本やノートは俺が最後に見た時よりも更に散らかっていた。俺はそれを視界の端に入れつつ、視線を感じた外を座っている出窓から見下ろした。人を殺すまではいなかない視線、どこか憎悪かそれ以上の禍々しい何かを感じる。俺はその視線に怖じるわけでもなく、はっきりとその視線を送ってきた影を睨んだ。すると影は気付かれないとでも思っていたのか、俺と目が合った瞬間驚いた顔を見せてそこの角を足早に去って行った。

「………。」

こんな視線を感じたのは、今日が初めてではなかった。俺は出窓から降りて机に突っ伏しているナマエの肩にベッドの毛布をかけてやった。できるのならベッドに運んでやりたかったのだが、俺の二倍生きているナマエの体を起こさずベッドに運ばせることは出来ないだろう。
…あの影の男なら、出来たのだろうか。俺はどこか悔しい気持ちを胸に感じながら、机の近くにあるゴミ箱を見た。ナマエが書き散らしたノートの紙くずや読み終わった宣伝等の手紙の中に、少し厚い紙が見える。以前見たことがある。この世界の、写真だ。それも、以前ナマエが俺の前で破り捨てた男との写真。二つに破り裂いたはずのそれはなぜかテープでくっ付けられていて、どうもナマエが直したとは思えない程綺麗な仕上がりではなかった。俺はそれをゴミ箱の中から拾って、躊躇いもなくぐしゃりと握りつぶした。


「…やるか。」




頃合いだ、と思った。


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