12



無意識かもしれない。だって寝言だもの。だけど、寝言だからこそ、本音かもしれない。

この間、神田くんと同じベッドで仲良く寝た。その時、神田くんの寝言を聞いた。きっと黒の教団の人達である名前を何人か言って、何かを言っていた。神田くんはきっと、神田くんの居場所の夢を見ていたのだ。ヴァチカンにある、黒の教団。
一緒に寝た日、公園で神田くんはこう言ってた。「ここは、アクマも何もない。平和で、いい。」、「だけど俺の居場所じゃない。俺は戦うために生まれたから。」って。神田くんみたいな子供が戦うのは嫌。でも、神田くんの居場所はここではないどこか。

神田くんは、本当に帰りたいんだ。(でも帰れないんだ。)




「これがパソコン、か?」

「そ、これがパソコン。現代人の素晴らしい必需品。」

「ナマエの家にはないな。」

「…お銭の問題よ。」


私は市立の図書館に神田くんと一緒に来ていた。神田くんの言う、黒の教団を探すため。探すってどうやって?そりゃぁもちろん文明の機器、パーソナルコンピュータ様パソコン様さ!(もっと言うとインターネットさ!)およそ100億ページの情報量があるネットならきっと何かわかるはず。私は「意味わかんねぇ」と眉を寄せた神田くんを引き摺って図書館のインターネットを開いた。私はでこぼこのキーボードを画面と一緒に見て、検索ワードに「くろのきょうだん」と入れて力強くエンターを押した。





図書館の館内にある休憩所の自販機でジュースを2本買ってベンチに座った。缶ジュースを初めて触ったという神田くんに代わってプルタブを開けてあげれば飲み口からプシュといい音が鳴ったが、100億ページあるネットはうんともすんともいわなかった。

何も見つけてあげれなかった…。

私は隣でジュースを飲む神田くんを盗み見てから、一口飲んだ。冷たいジュースが喉を通ってパソコンと一緒にヒートした私の体を冷やしてくれた。力強く押したエンターは黒の教団のくの字も表示してくれなかった。ただ関連ページが出てきただけでどんなに検索しなおしても出てこなかった。ヴァチカンはバチカンだし、エクソシストはエクソシストだし、神田くんの言うアクマは悪魔だった。どうして。

呆然とする私に神田くんはこう言った。


「お前の言うパソコンが本当に素晴らしいモンなら答えはもう出ているじゃねぇか。」

「え?」

「俺の言ってることは、でたらめだったということだ。」

「そ…っ、」

「それじゃなきゃ、この世界にはありえないもの、か。」



世界。



…世界?ちょっと待って。世界って、なんだ。この世界でありえないってどういう意味?非現実的ってこと?私はジュースをベンチ脇にある小さな机に置いて神田くんの黒い瞳を見た。神田くんは、真っ直ぐこちらを見ている。動揺している私を冷めさせるような、一点を見つめる静寂の瞳だった。


「なんとなく、思ってたことだ。俺はこの世界の人間じゃない。」

「は…、?まさかぁ…、だって神田くんここにいるじゃない。実在してるし…。」

「次元が違う、とか。」

「異次元、ってこと…?」

「そっちの方がわかりやすいか?」


神田くんは続けた。


「俺は、ナマエが言うテレビもカップ麺もパソコンも知らなかった。缶ジュースだって、開けれなかった。何もかも知らないのがいい証拠だ。」

「記憶喪失かも…。」

「教団の記憶ははっきりしてる。それに、俺はナマエの部屋に来る前に空間が捻じ曲がったのが見えた。」

「あ、それ私も見た。そこから神田くんが。」


そうだ、と神田くんは頷いた。そこから神田くんの仮説が始まる。何かの時空の歪みが生じ、その歪みの近くに神田くんがいて、私がいた。歪みはそれに共鳴し、広がりを持って神田くんを飲み込んだ。それで私の方の歪みがたまたまデカかったため神田くんが私の方へ来た。……ちんぷんかんぷんなんですケド。つまり、時空の歪みが神田くんを連れて来たってこと?と聞けば神田くんは頷いた。待って。ナニソレ。世界とか、空間とか、歪みとか、非現実すぎ。次元が違いすぎるよ。

(……あ、でも、待って。)

何か、昔聞いたことあるかも。世界。この世界以外にもう一つの世界があってまた違う世界があるって。えっと、パラレルワールド?確かそうだ。そんな名前。でもそんな、まさか。ぐるぐるし始めた私の目に神田くんはゆっくり続ける。


「一番の決定打は、ここにはアクマがいないことだ。」

「…アクマ……。前言ってた、大量殺戮兵器のこと?」

「そうだ。ここにはそんなものがいない。俺の世界には、ごまんといた。」

「たくさんいたの…?どこにでも?」

「俺はエクソシストだから、アクマを倒すためにたくさん国を歩いた。アクマはどこにでもいる。そこに人がある限り。」


だけど私の「世界」にはアクマがいないから、神田くんは違う「世界」から来たってこと…?…話が非現実的すぎる。でも……駄目だ、神田くんがそんなこと言うからそれしか思いつかない。異次元、異世界、パラレルワールド。色んな情報が頭の中に一気に広がってぐるぐるする。でも、でも…、もし神田くんが異次元から来た人だとしても、それってどうなの。結局のところ神田くんは、どうしたら元の世界に帰れるの…?帰り道は、もっと遠くなったんじゃないの。

異世界って決め付けたら、神田くんもっと帰る方法がわからなくなるよ。それなのに、神田くんはなんでそんなに平然としているのだろう。

(寂しいとか帰りたいとか思わないのかな。)

私なら…、と考えて打ち消した。違う、私がそんな事を思う必要はない。そう思っていいのは神田くんだけだ。私は首をゆっくり振って、ジュースを飲み干した神田くんを見た。


「……私、まだちょっとパソコンとか見てくる。」

「…?まだ何かあるのか。」

「あるよ…、」


それから、飲みかけのジュースの存在など忘れてベンチから立ち上がり本棚へと歩き出した。神田くんも遅れながらも後ろからついてきた。


「だって、肝心の神田くんの帰る方法がわかってないよ。」


そう言った私に神田くんは目を丸くしていた。

本当は帰らせたくない。だってそれは、私も子供を戦場に行かせるようなものだから。平和ボケした世界で育った私はそんなこと絶対にさせたくないけど、あっちの世界の人の名前を寝言で言われてしまったら、神田くんが泣きながら寝言を言っていたのを見てしまったら、そんなこと言えない!私は物理学の本を片っ端手にとっていってそれを思いっきり机に置いた。周りで静かに本を読んでいた人みんながびっくりしていたけど、気にしない!


「お前…、」

「何!」


私は今、ムショーにやる気なのだ。というのを見せたくて神田くんに勢いよく返事をしたら、神田くんは少し私を睨んで、それから小さな溜め息をついて首を振った。


「いや、なんでもない…。」







閉館まで読んでいたけど、手がかりは何もでなかった。


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