隊長同士の非番がかぶる事はたまにしかなかったりする。





討ち入り前が忙しい監察と、討ち入り以降が忙しい一番隊。

今は落ち着いているといっても、合わせるのは難しい。

が、なんとかお互い調整して、あの日から2週間後の今日。



「これと、これと…あと、この髪飾りも下さい!」

「うわ、すっげぇ派手。」

「こういうのが好きな人、意外と多いんですよね。」


街中のとある着物屋で、任務中の着物を物色していた。


なんかイメージ的というか、性格的というか、総悟さんは買い物あんまり得意ではなさそうなのに、隣で喋る彼は思いの外楽しそうで、少し意外だ。


「まぁ、こんなもんですかね。」

「売った金がまだあるんでィ。もっと買え。」

「これで充分ですよ。」


それでも結構な荷物になってしまった買い物袋を、彼は「貸せ」といい携帯片手に店頭に出る。


(あれは退さんに取りに来てもらう感じだな…。)


心の中で退さんに合掌して、時間がありそうなので、店内を見渡す。


色とりどりの着物が掛けられていて、思わず目を奪われる。


(そういえば、自分の為に着物とか買った事ないなあ。)


今着ている物も、かなり前に屋敷に忍び込んだときに、かっぱらった女中用の着物で。
…もう何年物だろうか。

まあ、この狐のお面つけてる時点で、どんな着物も霞んでしまう気がするから、私には色褪せた地味な着物で充分だ。(非番中は大体引きこもってるし。)



「そんな顔しなくても買ってやらァ。

全く、これだから駄々っ子は。
自分の分も欲しいなら、欲しいって言いなせェ。」


「いや、別に欲しくないですし、そもそもあんた私の顔見えないでしょ!

…荷物はどうしたんですか荷物は。」



「ザキが取りに来るまで、一旦店に預けとく。

ほれ、こんな色は?」


戻ってきた彼は、着物を見つめる私に違った解釈をしてしまったらしい。

買うつもりもないし、話を変えるつもりだったけど、どうやらこの人の目はブレる事がない。


「買っても着ないですし、勿体無いですよ。

…そんな鮮やかな色似合いません。」


差し出されたのは、綺麗な水色の着物。
黄色と桃色の蝶々が華やかだ。


擬態中はその顔に似合う物を着るから、これよりもっと派手な着物も着る事もある。
けど、それは私じゃないからで。

『私』のときは、着物なんてあまり着ないし、そもそもそんな鮮やかな物は着た事がない。


ふいっと着物から目を逸らし、出口へと向かおうとすると、彼はため息をついて、私の手首を掴んだ。




「…じゃあ、コレは俺の金で買うから、お前は黙ってなせェ。」


「いやいやいやいや、なんでそうなった。」


「次もそんなみすぼらしい着物で来られるとたまったもんじゃねェんで。

あ、ばーさんコレ頼むわ。」


あいよっ!と、店のお婆さんがにこやかに此方へ来ると、総悟さんから着物を受け取り、私の手を握る。

え、このおばあちゃんめっちゃ力強いんですけど。


「い、いや私は…」


「男の言う事は聞いておきなさい!それがいい女だよ!」


ニコニコと私の手を引っ張ると有無を言わさず、更衣室がある中へと引きずっていく。

気迫に押されて、何も出来なかったのは忍としてあるまじきかもしれないけど…このおばあちゃんがただ者ではないという事で許してもらいたい。


あれよあれよと言ってる間に、着物を着せられ、帯もそれにあった物を巻かれた。

今流行りの飾り帯で勿体無いと思いつつも、更衣室前の鏡を通ったとき、思わず立ち止まってしまった。



「…………可愛い。」


「俺が選んだんでィ、当たり前だろ。」


振り返ると総悟さんが満足そうに此方を見ていた。


「前の着物は処分してもらうから、お前にはその着物しか残ってねェんで。」

「えぇ…マジでか。」

「あとこれ。」



近づき私の頭を弄くり出すが、不器用なのか、時間がかかってしまう。

よし、と声が聞こえて再び鏡を見ると、綺麗な白い花の髪飾りがついていた。


「え、え?」


「こんなんした事ねェだろ。

……この前の詫びでィ。黙って受け取れ。」


そういい、店を出ていく総悟さんを暫く放心状態で見ていたけど、我に返り急いでついていく。



「『私』のときに、こういう格好したの、初めてです。

…ありがとうございます。」



そういうと、満足気に笑う彼に、少し胸が鳴ったのは、きっと気のせいだ。






気持ちに蓋をする
(次は甘味処にでも行くか。)
(わ、私食べませんよ?!)





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