出会えて良かった
先程までキュルキュルとお腹を空かせていた音もピタリと止んでしまった
空腹よりも緊張が勝ってしまいそれどころでは無くなってしまったからだ
知らない人達、知らない土地…こんな所に放り込まれてしまった原因も分からず、どうしようとブルーは俯き頭の中で繰り返す
「大丈夫?何処か具合でも悪い?」
『あ、いや…』
(…逃げ、るか?)
この場で姿くらましをするべきか、でもこの土地でそれをして何処へ行くか分からないしホグワーツに戻れるかも分からない。なによりもし万が一腕を掴まれたりしたら…きっと相手はバラけてしまう、なんて考えているとプロンプトに話しかけられる。
心配をしてくれているのになんて事を考えたんだろうと罪悪感が押し寄せて来た。
(助けてくれた上に、美味しいご飯までくれる人達を無碍にするなんて出来ない…!)
#名前#の脳内は、そんな単純な考えで逃げると言う選択肢は消えた。でもホグワーツに戻る為には…出来るだけ情報を得なければと、意を決すると顔を上げてイグニスと向き合った
『あの、凄く変な事を聞いてしまうんですが…ここでは「魔法」なんて物は…無いですよね?』
頭がおかしいやつと思われればそれでお終いにしようと直球で質問を投げかける。
少し場の空気が思い気がするが気のせいだと思おう
「あるにはあるが、使えるのは王家の人間…ルシスの血を引く物だけだ。」
『あはは…ですよね、ある訳…え!?』
魔法なんて世界にある訳がないと、否定しか返って来ないと思っていた矢先の意外な
答えだった。ブルーは前のめりになって勢いよく問いかける・・・するとその瞬間、ぴりっと空気が変わった気がした。
正確には、イグニスとグラディオの空気が変わった。
『その王家の方は…ルシスの血を引く方と言うのはどちらにいらっしゃるんですか!?』
「…どうして王家の者を探しているんだ?」
「王家の人間になんか用か?」
『…ひえ』
どうして、なんで、なぜあの質問で怒らせてしまったのか検討もつかなかった
魔法が使える人の元に行けば帰る手がかりが掴めるかと思って聞いただけだったのに…
2人の鋭い目つきにダラダラと冷や汗が出てくる、流石にプロンプトもノクティーガーも食べる手を止めてブルーを見ていた。
なんかもうコワイ…と白旗をあげるように大きなため息を吐く。すぅ、と深呼吸をするともう半ばヤケクソのように話し出した
『頭がおかしいって思われるかもしれないんですけど…私ちょっと違う所から飛んで来ちゃったみたいな感じかも…です、多分』
「どーゆー事だ?」
『その、実は…私はホグワーツと言う所に居たんです。皆さん聞いた事ありますか?』
「うーん、聞いたことないなぁ…」
『私がいた世界では皆さんのような普通の人の事を、マグルと呼んで居ました。マグルと言う単語は聞いた事がありますか?』
「…無い」
『マグル以外に、決して表にバレないように隠しているけれど…魔法が使える者がいるんです』
「…王家では無いのに、魔法が使えるのか?」
『はい。』
「あんたはどっちの人種なんだ?」
直球なグラディオの質問にごくり、と生唾を飲む。
私の正体を話せばどうなるか分からない…でも、この人達を信じてみようと思った
『私は…後者の、魔法が使える者です』
「信用ならないと言ったら?」
『…分かりました』
ふぅ、と息を吐く。
手のひらを目の前にかざし、ゆっくりと口を開く
『ルーモス』
パッ、と掌に光を放つ塊が浮かぶと4人はそれを見て、驚いていた。
「…驚いたな」
「凄い、本当に魔法が使えるんだ…!」
「すげェな」
「確かに、この国では見た事がない物だな」
ノックス、と唱えて光を消すと手元にある冷めてしまったシチューを見つめながら再び話始めた
『…どうしてこの世界に来てしまったのか、分からないんです』
「ホグワーツと言う所で何かあったんじゃないのか?」
『ホグワーツは丁度、凄く大規模な戦いの真っ最中だったんです。私はその戦いに参加していました。でも気が付いたら…』
「この場にいた、と言う訳か」
イグニスの答えに、はい。と渇いた声で返す
あの戦いを思い出して皆が無事なのかどうか、なぜこの世界に来てしまったのか。
不安だらけの気持ちが溢れ、じわりと目元が滲んでくる
『変ですよね。こんな話、私もいきなり出会った人にこんな話されたら信じれるかどうか…。でも、倒れていた私を助けてくれて、こんなに美味しいご飯までくれた人達になら、話してもいいかなって思たんです』
涙が溢れないよう、精一杯の笑顔で皆に向き合う。
このまま、変人扱いされてどこかに連れて行かれてしまうんだろうか…。
それはそれで仕方ないのかなぁ、なんて#名前#は考えていた
「…いーんじゃねーの」
「…ノクト」
「帝国の人間でも無さそうだし、イグニスの飯美味いって言ってるしよ」
「信じる基準そこか?」
「第一、さっきの魔法見たこともないしな」
「確かに…」
「あんたはどうしたいんだ?」
『…え?』
ノクト、と呼ばれる彼…ノクティーガーさんが唐突に私に問いかける。私は…この世界でどうにかして帰る方法を探さなければならない。
『私は…この世界で元の世界に帰れる方法を探したい、です』
「何も知らないこの世界でなんとかなんのか?」
『…そ、それは…』
この世界では王家の人しか魔法が使えないと言っていた。つまり、むやみやたらに魔法を使うのはまずいと言う事だろう。魔法しか知らない私が、この世界でやっていけるのだろうか
『…な、なんとかします』
「ここではモンスターが沢山いる上に、夜になるとシガイと言うのも発生するぞ」
『も、もんすたー…』
イグニスに言われ、ブルーは自分の世界でのモンスターを想像する。危険な魔法生物は沢山いたけれど、基本はホグワーツに守られていたから滅多に触れ合う機会は無かった。うーん、と悩むブルーにノクティーガーがじっと見つめてくる
「…俺達と一緒に来るか?」
『…へ!?』
「ノクト、それは…」
「帰り方、探してんだろ。何処に方法があるかも分かんねーし…俺達といた方が見つかるかも知れないだろ」
『で、でもそこまでお世話になるわけには』
「あんたが思ってる以上に、ここには危険が多いぞ」
『…んんん』
ちら、とノクティーガー以外の3人を見る。プロンプトは一緒に行くの!?賛成ー!と言ってくれているが、他の2人はどうだろうか…。
「ノクトがそう言うなら…」
「まぁ、他の世界を知るってのもいいんじゃねーか」
「つー訳で、一緒に行くって事で。」
『…っ、ほ、ほんとに良いんですか』
「あんたのその魔法も、色々と気になるしな」
「素直じゃないなぁノクトは、心配だからって言えばいいのに」
「うっせープロンプト!」
「ぎゃー!ストップストップ!」
プロンプトとノクティーガーがふざけ合っている様を眺める。
するとイグニスさんとグラディオがこちらにやって来た
『あ、あの…』
「ノクトがああ言ったら聞かないからな」
「気にしねーで、気楽に行こうぜ」
皆の言葉にブルーは再び涙腺がじわりと緩む、会ったばかりの見ず知らずの人間を仲間にしてくれて、こんなにも温かくて優しい人たちに出会えて。
うるうるとしていた瞳を天を仰いで堪えると、今までの緊迫とした空気はそこにはもうなく、ただ賑やかなキャンプの姿だけがそこには残っていた。
ふざけていたノクティーガーがこちらに近づいてきて、優しく言った
「宜しくな、ブルー」
『…っ、はい!』
頂いたシチューは、冷めていてもとても温かくて美味しかった。
(あ、俺の名前ノクティーガーじゃなくてノクトな)
(…ノクトさん?)
(ノクトでいい)
(ノクトにさんとかいらないから大丈夫だよ)
(うっせープロンプト)
[ 4/15 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]