震える手






買い物を終えてホテルへ戻るとプロンプトとグラディオは既に部屋へと戻っていた。どうやらノクトはイリスさんと街を回っていたらしく2人で一緒に戻って来る


「ノクト、今日はデートみたいで楽しかったね!」
「だからデートとか言うなって…お前んトコの兄貴に怒られんだろ」
「ほぉ、デートしてきたのかイリス」
「あっ、兄さん」


ちょっと詳しく聞かせてもらおうか、なんてノクトがグラディオに茶化されている。まぁあんなに可愛い女の子とデートが出来るなんて嬉しいんじゃないだろうか、そう思うと少しだけモヤっとした気持ちが残る。

…なぜモヤっとした気持ちが残ってしまうのかと言うところに疑問を持ってしまった。2人は仲が良いから当たり前なのに、そこに対してモヤモヤとする感情を残してしまう自分に罪悪感が募る。ノクトの事を特別視している訳じゃないはずなのに


『うーん…』
「どうした、ブルー」
『…いや』
「あっ2人ともお帰り!ちゃんと服買えた?」
『プロンプト、グラディオただいま。一通り揃えられたよ』
「良かったな。その格好だと暑いだろ、着替えてこいよ」
『うん』

なぜこんなにモヤモヤするんだろうと考えているとプロンプトに話しかけられて途中で思考を切り替える。

イグニスが持ってくれていた買い物袋を受け取ると部屋に戻り買ったものを確認した

何枚か買って貰ったTシャツは拡大呪文のかかっている巾着にしまう事にする。主に着るのは薄手の白いTシャツにショート丈のデニムパンツ、その上に黒いジャケットを羽織った
動きやすいミドルブーツも揃えて貰い、今までの姿とは一変する。元々来ていたローブと制服を巾着の中に収納すると、本日揃えた服達に袖を通す

すぐに使えるように杖のホルスターも用意して貰い、太ももの辺りにベルトで固定させた。


『…まぁ、こんなもんかな』

鏡を前にくるり、と回ってみる
なんだか見慣れないけど動きやすさは格別だった。
これできっと今までよりも動ける…と思った時だった
部屋の扉を誰かがコンコン、とノックしてくる


『はーい』
「悪ぃ、入って良いか」
『…どーぞ』
『ブルー、急なんだけど午後から王の墓まで行く…って…』


扉を開けたのはノクトで、先程のモヤモヤを少し思い出す。
何やら伝えることがあるみたいだった。
途中でノクトがこちらを見て喋る声が小さくなっていき、そのままこちらに歩み寄って来た

 
『どうしたの、ノクト』
「あ、いや…見慣れねーと思って」
『…あ、これね。』
「ん、すげー印象変わったな」
『そうかな?』
「ああ、なんつーか…似合ってる」
『…ありがと』


似合ってる、そう言われると素直に嬉しくなる自分がいた
さっきまで落ち込んでたのに今度は少し元気になる。
なんて単純なんだろうか


「これから近くにある王の墓所に行く事になった」
『分かった、もう出るよね?』
「急だけど平気か?」
『大丈夫、今行くね』


ノクトが部屋から出ていくと残りの洋服を片付けて身支度をする。簡単に一喜一憂してしまう気持ちに無意識に蓋をすると、部屋を出て皆が待つロビーへと向かって行った










これから向かう先はグレイシャー洞窟、と言う所らしい
イリスさん達と一緒にいたタルコット君が王の墓所の情報を持っていてそれを頼りに向かう。

途中何度か魔導兵に遭遇し戦闘になると、どうやら相手も手数と強さを上げた様で遭遇すると中々の戦いになった。

『ボンバーダ!』

バンっ!と音がして魔導兵が粉々に砕け散る。
本日何度目かわからない戦闘に皆少し疲れが出ていた
それでも皆を守らねばとブルーはひたすら魔法で敵を薙ぎ払う


『グラディオ後ろ!…ステューピファイ!』
「…任せろ!」

敵が麻痺して動けない隙にグラディオが攻撃し破壊していく。
連携はうまく行き、敵はどんどん減って行った

『ボンバーダ!』

また魔法が当たると白い粉となって敵が消えていく
最後の1人を倒し終えるとふぅ、と一息ついた

「さっすがブルー!もう慣れて来てるね!」
『ありがとう、皆の連携のお陰だけどね』
「もうプロンプトよりも強かったりしてな」
「ええー!俺だって頑張ってるしー!」

ぶー、とプロンプトが拗ねると皆がけらけらと笑う
わーってるよ、とノクトがプロンプトの頭を小突いた

「日が暮れて来たな…ノクト、今夜はキャンプになるが構わないか」
「そーだな、そろそろキャンプにすっか」
「この近くに標がある。今日はそこで休もう」

はーい、と返事をするとまたレガリアに乗り込み標までの道を行く。川のそばにメンブルムの標があり、そこで休む事にした
イグニスが食事を作ってくれてそれを皆で食べる
手伝おうとしたが、今日は沢山戦ったから休んでいてくれと言われてしまった

疲れているのは一緒なのにと思ったけれど、今日はお言葉に甘える事にした

「今日はカツサンドかー!お肉美味しい!」
「ん、うまっ」
「明日は洞窟に入るからな、力をつけてくれ」

もぐもぐ、と各自食べ始めて行く
イグニスが入れてくれたカフェラテと共に頂こうと思い椅子に座って食べようとした時だった
カタカタ、と何故か利き手が震えている。ぇっ、と思わず声を出してしまう

「ん、ブルーどーしたの?」
『あっいや、なんでも無かった』

利き手をさっ、と隠しもう片方の手でカフェラテを飲む
利き手は使えないのでカフェラテを置くとそちらの手でカツサンドを食べた。今日がスプーンを使う食事で無くてよかった、と心底思う

明日になれば治るだろう、そう思って対して気にせずにテントで一夜を明かした












朝早く出て、グレイシャー洞窟の前へと辿り着く。
途中にいた大きな蛇のモンスター、ミドガルズオルムに見つからないよう隠れて進んできた

大きな蟹の様なモンスターもいたがそれを見てイグニスが大きくため息をついていた
どうやら海鮮は好きだが大きすぎるらしい

大きな滝の裏に隠れていたそこは酷く冷える
ゆっくりと入って行くといかにも何か出そうな雰囲気が漂っていた

「ううう寒いっ、この格好のまま入るの?!」
「大丈夫だ、死にゃしねーよ」
「こんなに寒いならシガイなんていなかったりーー」
「ほら、出たぞ」
「しないよねー」

ウオオオ、とシガイの声が響き渡り戦闘が始まる
スライムのような敵が出現したがまだそこまで強くはなく手こずらずに退治が終わった

「床、ツルッツルだね」
『ね、転ばない様にしないと』
「おぁっ!、ヤッバ」
『ノクト!』

崖の近くにいたノクトが足を滑らせて落下する。急いで杖を向けると魔法を唱えた

『ウィンガーディアムレビオーサ!』

ふわっ、とノクトの体が浮いて落下する事なくこちらに戻って来てすとん、と地面に降ろす

「さんきゅブルー、助かった」
『いいえ、気をつけないとダメだよ』
「ノクト、もう少し周りをちゃんと見て…」
「はいはい、わーったって」

なるべく離れないように固まって行動をする
滑り台のようなツルツルとした所を降らないと最深部までは行けない為順番に降りて行く

「あああやっぱり寒い…顔が痛い…」
『流石に冷えるね』
「早く墓、見つけねーとな」
「気合入れて探せよ」

両腕を摩り寒さを少しでも和らげようとする。
はぁ、と息を吐くと白い息が出て寒さを物語っていた

「へーきか?」
『ん、大丈夫』
「早く見つけて、あったけーのでも飲もうぜ」
『うん』


時に迷子になりながら奥まで進んで行くと、少し開けた場所に出てくる
グラディオがおい、と声をかけた

「あの扉…!」
「どうやら着いたらしいな」
「やった…!」
『プロンプト、待って!』

王の墓所の扉を見つけプロンプトが駆け寄ろうとすると足元か黒くなりシガイが現れる

「うわああああ!」
「チッ、おでましか」
「簡単にはいかねーってか」

タコの足の様なものを持ったシガイ、マインドフレアと小さいシガイが現れる。
狭い洞窟の中、必死になって戦うが敵が強く中々思うようにいかない
こちらに向かってマインドフレアが接近してきて、魔法を唱えようと杖を向ける

ボンバーダ、と唱えようとした時だった。また手が震え出し上手く力が入らず魔法が出せない
近寄ってきたマインドフレアの触手に捕まると、首を締められる。持っていた杖がカラン、と地面に落ちた

『っ、がっ…ぁっ!』
「ブルー!!」
「っ、くそ!」

ノクトがこちらに向かって来ようとするが敵の攻撃により足止めされてしまう
意識が霞んで行く中、ブルーは力を振り絞り自身を襲っているマインドフレアに震える手をかざすと呪文を唱えた

『っ、エク、スパルソ!』

バンっ!と爆発音が響いて、爆風で壁に打ち付けられる。
マインドフレアは倒せたが素手だった為魔法の制御が出来ず、衝撃で頭を打ちつけてしまいその場から起き上がれなくなってしまった

『っ、…ぅ…』


ぐわんぐわん、と世界が廻る
意識が朦朧として、目の前が真っ暗になるとそのまま意識を手放した


















(おい、しっかりしろブルー!)
(だめだポーション使っても目覚まさないよ!)
(ノクト、墓所で力を貰ったらすぐに出てレスタルムに向かおう。まずはそこでブルーの治療だ)
(っ、わかった)
(グラディオ、ブルーを頼んだ)
(おう、任せな)





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