思い出に浸る







チョコボに会った。はずだった
初めてのチョコボ体験に、さらさらなんだけどツンツンしていて人の髪みたいな毛並みなんだなぁ…なんて思ったところでぱちっ、と目が覚めた
まだ会ったこともないチョコボが夢の中で出てくるくらいに会いたかったのは自身のことなのに意外だった
夢の中のチョコボがどんな生き物かすら覚えていないが出来ればもう少し堪能していたかった

チョコボを触っていたと思われる手を見ると、チョコボではなくノクトの頭に触れていた
そういえば…と昨日一緒に寝た事を思い出す。身体にはしっかりと布団がかけられていて、きっとイグニスあたりが掛けてくれたんだろうと思った
握られていた手は既に離されていて身動きが取れる様になっている。紛らわしい頭め、と言う意味も込めてノクトの頭をわしゃわしゃと撫でると身じろいで動きだしたので何か言われる前にと起き上がってベッドを出た

イグニスとグラディオは既に起きていて、モービルの側にある明日でモーニングコーヒーを嗜んでいる
おはようと言う会話と共に、グラディオがやけにニヤニヤして見て来た


『…なんでしょうかグラディオさん』
「いーや、随分仲が良い事で」
『ハハハーソウデスネー』



グラディオを軽くあしらって自分の身支度をせっせと整える。後から起きて来たプロンプトが何か言っていたがなんかもう疲れるので聞かなかった事にした
本当にノクトは寒かっただけかもしれないし、でも考えても分からないからきっとそういう日だったんだろうなと思う事にする。








「チョコボ〜!やっと会えたよー!」
『この子がチョコボ…』
「そう、この見た目、毛並み!可愛いでしょー!ほら、はやくブルーも触ってみなよ!」


ノクトも起きて準備が終わるとウイズさんにお願いして朝からチョコボを触らせて貰っていた。
わさわさとチョコボと戯れるプロンプト。彼が触っているチョコボとは別のチョコボの前に近寄る。初めて触るチョコボにドキドキしたが、ゆっくりと手を伸ばしそーっと撫でると気持ちよさそうにクエッっと鳴いた
そのまますり寄って来るので優しく抱きしめるとふわふわとした毛並みが頬にあたる
 

『ふわふわだね〜よーしよし、いい子いい子』


チョコボの独特な匂いが鼻を通る、夢で触った毛並みと全く違い柔らかくて気持ちよかった。あれはノクトの髪の毛だったから当たり前だけど…。
私がチョコボを抱きしめている光景を見たウイズさんがこちらを見て驚いていた。


「おや、その子は初めて会った人には中々懐かない子なんだが…君には心を許しているようだね」
『…そうなんですか?』
「ああ、その子は元々野生のチョコボでね…大概の人には威嚇するか慣れてからじゃないと触らせてくれないんだ」
『なるほど…』


もっと触ってくれ、と訴えてくるようにすり寄って来る。昔から動物に好かれる体質ではあったがここまで来ると何か自分からそういった動物に好かれる匂いでも出しているんじゃないかと疑ってしまう


フォークスやユニコーンとはまた違う未知の生き物。
凄く癒される…と頬を擦り寄せ堪能していた時だった
隣でプロンプトが何やらケラケラと笑っている…何事かと思って向くと、ノクトがチョコボに餌をあげようとして大量のチョコボに群がられていた所だった。


「だぁー!わかったわかったって!!今やるから!」
「ノクト、チョコボに遊ばれてるよ〜!」
「はい、はいっ!!」
『…ノクト、完全に遊ばれてるね』
「見てねぇで助けろって!」
『はいはい』


餌入れを持ってチョコボを誘導するとノクトの側から離れてこちらに着いて来る。手渡しでご飯をあげると喜んで食べていた 


「随分慣れている様に見えるな、ブルー」
「確かに初めてにしちゃあ上手いな」
『あー元の世界にも沢山生き物が居てね、お世話してたからかな』


そばで見ていたイグニスとグラディオが話しかけてくる
ハグリッドに頼まれてドラゴンの面倒を見たり、ヒッポグリフなんかを見たこともあった。基本いい子達ばかりだったのでそこまで手は掛からなかったが…。

疲れ果てたノクトを横目に、美味しそうにご飯を食べるチョコボを眺めながらブルーは自身が見てきた子達を思い出し、懐かしいと耽っていた









チョコボとお別れし、チョコボポストウイズを出発した私達は途中何度か帝国軍に道を遮られたが無事にイリスさんが待つレスタルムへと到着した。
レスタルムは他の町よりもとても暑くて、どちらかと言うと夏の気候に近い気がする。凄く賑わっていて互いが知らない相手でも挨拶をしてくるくらいだった。


車を停めてまず街を見る前にイリスさんと合流しようと言う事になり足早に向かう途中、いきなり街が地震が来たかのようにゴゴゴゴ、と揺れだした
地震が来たと同時に、激しい頭痛が頭に襲ってくる
キツく頭を締め付けられる様な痛みに顔を歪め頭を押さえた。
地震だ、と街の人々が慌て始める。この頭痛は私だけなのだろうか…と痛む頭を抑えながら周りを見ると、ノクトも私同様に頭を手で抑えていた。

『…ぇ…?』

痛みが治まるのを待つ為、キツく目を閉じていると何か映像が頭に流れ込んで来る。何処かで見た光景、背筋がゾクッとして来て…誰かが私に何か叫んでいた。



地震が治まって行くのと共に頭痛も少しずつ引いて来る。
どうした、とイグニスがノクトとブルーに声をかけていた

「なんか、頭痛ぇと思ったけど…」
「大丈夫…?」
「平気、治った」
「もしかしてブルーもか?」
『…』
「ブルー?」
『…ぁ、ごめん。大丈夫、心配してくれてありがとう。』
「2人同時に頭痛とは妙だな…」


もう平気だから行こうぜ、と気を取り直してホテルの中へと入っていく
グラディオが携帯を取り出して着いたぞ、と誰かに連絡していた。恐らくイリスさんだろう。
階段から1人の女の子が降りて来て、グラディオの事を兄さんと呼んだ。


「あれ、その人は…?」
「彼女はブルーと言うんだ。少し記憶を無くしていてな、一緒に旅をして記憶を取り戻そうとしているんだ」
『初めましてイリスさん、ブルーと言います。』
「こちらこそ!記憶を無くすなんて…大変でしたね…」
『皆さんのお陰でここまで来れたので、感謝してます』


イリスさんはとても可愛らしい女性だった。グラディオの妹だなんて言われないと分からない気がする、本人に言ったら怒られそうだけど。


「イリス、時間とれるか?」
「うん、大丈夫。」
『…ごめんイグニス、私ちょっと外に行ってるから皆で話してきて』
「外はもう暗くなる、街の中だからと言って安全じゃないぞ」
『だいじょーぶ、ちょっと歩くだけだから』


ね?と念を押して小声でイグニスに話しかけるとへらっと笑って足早に外へ出て行く。少し1人になりたくて、レスタルムの街を散策した


街を少し出歩いた頃、とても明るいと思わせる工場を見つける。中には入れないが、日が暮れて来たこの時間を照らす光を綺麗だなぁと眺めると側にあった階段に腰掛けて短くふぅ、と息を吐いた。

先程の地震の時の出来事を思い出す。嫌でもあの時の映像が頭に焼き付いていた。

『…なんで』


叫んでいた人物、あれはどう見ても…ヴォルデモートだった。
どうしてか分からない、なぜこちらの世界で彼が私を呼びかけるのか

あの場を抜けて来たのは、きっと自分がいない方がしやすい話もあるだろうと思った。この世界の人間でも無い人に同情なんてして欲しくないだろう、立場も生い立ちも皆とは違う
何より、動揺していたので1人になりたかったと言うのもあった…あんな映像が突然流れて冷静で居られるわけがない。


ほんの少しだけ生まれる寂しさと不安を紛らわす様に、ポケットに大切にしまっていた指輪を取り出す。昔から持っている大切な物で持ち運びしやすい様にチェーンを通してネックレスのような形にしていた、身につけていないのは…時が来るまで誰にも見られてはいけないと言われて来たからだ
誰に言われたかは覚えていないけど、でも守らなければいけない気がした。握りしめると、もやもやとした感情が和らいでいく気がする


『…どうしたらいいのかな…父さん…』


誰にも聞かれる事なく消えていく言葉。私が不安で押し潰されそうな時、いつも温かい言葉をくれた人…もう2度と会えない育ての親、アルバス・ダンブルドアを思い出して1人で膝を抱え込んで丸くなっていた。















(あれ、ブルーは?)
(さっき外に出て行った。止めたんだが聞かなくてな)
(こんな時間にか?)
(街の中とは言え危ないだろ)
(俺行って来るわ…うおっ)
(お前はイリスから色々聞くんだろ)






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