「キミの笑顔が見たいから」

「………」

今日の降矢虎太はどこかがおかしい
昨日の夜からソワソワとうざいほどに動き回っていた

「どうしたの?」
「……っ、別に」

今日なんていつもより早く起きて一人で練習していた

いつもの虎太じゃないことは俺だけでなく竜持も悟っていた


眩しいくらいの太陽が昇ってきて、桃山プレデターの皆が集まった
そのおかげで虎太がこんなに挙動不審な理由がわかった


『皆!おはようございます♪』
「おはよう香織」
「おはよう香織ちゃん」
『おはよ〜エリカちゃん、玲華ちゃん』

その少女は笑顔でやってきた
相変わらずゆっくりと歩いている
その横にはいつもの柴犬がいた

「わんわん!」
「おっ、今日も元気がいいなあ」

皆でその犬に群がる中で、虎太は俺たち降矢三兄弟と一緒に佇んでいた

「どうしました?虎太くん」
「………」

問いかける竜持を無視して、虎太は彼女の腕の中の犬を睨みつける
すると彼女はそんな視線に気付いてこちらへきた

「あ、こっちきた」
「虎太くん、今日こそ!」
「………」

虎太は緊張しているのだろうか、眉に皺をよせていた

「おはよう香織」
「おはようございます香織さん」
『おはよー』

にっこりと彼女は俺たちに笑いかけた
虎太じゃなくても、こりゃ、誰だって惚れるよ
彼女は柴犬を腕から下ろした

「さ、桜井…」
『ん?なあに?虎太くん』

少し下を向いて手汗をかきながら言葉をふりしぼる虎太

「お、お…おお…おは……」
『?』
「お、おはよ……っ、ぉはよう…」

彼女は一瞬驚いたように目を見開いて、それから嬉しそうに笑った

『おはよう!虎太くん!』
「!!」
虎太は彼女の可愛らしい笑顔にノックアウト寸前だ

彼女の柴犬が虎太の足元にやってきた
「わん」
がぶ、という音とともに犬は虎太の足を噛んだ

『な、何やってるの!!こら!!…こ、虎太くん大丈夫?』
彼女は虎太の足元にしゃがみこんで、虎太の顔色を窺う
「………っ!!」

虎太くん、完全ノックアウトです。







練習がはじまり、休憩の時間がやってきた

『エリカちゃん!玲華ちゃん!おつかれ〜』
彼女は二人にタオルとドリンクを渡した
「おおきに!それにしても香織もサッカーできればいいのになあ」
『あはは……』
「しょ、しょうがないよ…」
彼女は暗い顔になって、けれども笑って答えた

『玲華ちゃんの言うとおり!こんな体だからしかたないよ!
 まあ私にはサッカーの変わりに皆を手伝えるから、それだけで幸せだよ』
彼女はそう笑顔で答えた







空がオレンジ色になり、夕日が雲の向こうへ落ちていく時刻

『あ、虎太くん!!』
「!!!な、なんだ…?」

香織は虎太が帰る前に話しかけた

『朝はごめんなさい!!痛かったでしょ?』

朝…虎太は思い出した。自分が犬に噛まれたことを

「大丈夫だ…」
『そっかあ…!よかった……』

香織は心底安心したような顔をした
すると突然香織の足元が崩れる

『ひゃあ!?』
「香織!!」

虎太はバランスを崩す香織を受け止めた

「大丈夫か?怪我はないか?」
『だ、大丈夫、です…あ、ありがとう…』

虎太は香織のことを立たせる

「ただでさえ桜井は体弱いんだから、気をつけろ」
『は、はい……』

虎太は香織の肩をおさえながら真剣に言った
香織の顔が赤いことに気付く虎太は自分が何をやっていたか理解した

「っ!!…わ、わりい」

パッと香織の肩を離す

『だ、大丈夫だよ…』

二人の中に思い沈黙が流れた

『じゃ、じゃあ…私はこれで…』
「ま、待って…」

虎太は香織の腕を取った
細くて、白い腕だ

『なあに?』
「………」

虎太にとっては、これのおかげで夜も眠れなかったのだが、肝心な所が言えない

『???』
「……目つむって後むけ」
『へ?わ、分かった…』

彼女の髪からいい匂いがした
虎太は唾を飲み、銀色のネックレスを香織の首につけた

「…いいぞ」
『ん……』

彼女の長い睫毛が持ち上がって、自分の首元を見た

『わあ…可愛い!!』

目を輝かせて言った

「ほ、ほら、桜井、今日誕生日だから…」
『うん!虎太くん、ありがと!』

微笑みあう二人

「わんわん!」
『わっ…何?』

彼女のつれている柴犬が虎太と香織の周りを走ったかと思うと
虎太の目の前には香織が―
犬はリードを繋いだままで、香織がリードの先を持っていたのだ

そのせいでバランスが保てなくなる

『はわわわ…!!』
「っ………」


下が芝生だったから良かったものの…

「おい、大丈夫か」
『大丈夫………』

香織が虎太の上に乗っている格好になってしまった
それに足元が縛られて立つことができない

虎太と香織は二人揃って目をあわせては顔を耳まで真っ赤にしていた


しばらく身動きが取れないまま虎太は目の前にいる彼女の瞳を見つめていた
虎太はこれがチャンスかと思っているのだろうか

虎太は彼女の顔を優しく手で押さえて
静かに、唇を重ねた

『ん…っ!?』


口付けを終えると虎太は照れずに、真っ直ぐ彼女を見て言った


「か、香織……お前の事が好きだ」









***
虎太くん可愛いです
 
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