高潔

 あの子はいつも強かった。他の女の子にバカにされても美しい笑顔で受け流したり、僕には到底及ばない。それでも少しだけ、あの子みたいになりたいなあなんて思って、いつも失敗して、あの子に助けられた。僕の幼馴染はカッコイイ。女の子だけど、すごくカッコイイんだ。

「ごめん茂夫、私のペン取っ・・・やっぱいいや」
「いいよ!僕が取るよ!」
「ええ・・・別にいいのに・・・」

 一緒に勉強しているユリちゃんはとっても綺麗で尊敬しているからこそ何でもしてあげたくなる。ユリちゃんは僕が守りたいんだ、これって間違っていないよね? ユリちゃんはそれでも「ありがとう」と笑顔を見せてくれるから、僕は勝手に満たされてしまう。お節介だってわかっていても何か力になりたい。
 僕は顔をあげて目の前の人を見た。睫毛も髪の毛も僕より長くてとっても綺麗だ。指も細くて柔らかそうだし、僕とは全部違う。ユリちゃんは女の子だし手首も肩幅も僕より小さい。もし男の子が変なことを考えてしまったら、きちんと抵抗できるのだろうか。その柔らかい唇だって、誰にも渡したくないのに。

「茂夫・・・?」

 僕を見たきらきらした瞳が大きく見えた。ユリちゃんの小さな手に僕の手を添えて、机から乗り出してユリちゃんの唇に触れた。ユリちゃんの唇は柔らかくてふわふわしていた。はむ、と唇を挟むように自身の唇を動かした時、自分が何をやっているか頭で理解した。バッと離れると、ユリちゃんは真っ赤な顔で涙目になっていた。

「っご、ごめん!あの、その・・・」
「あ、今・・・」
「本当にごめん!嫌だったよね、ごめんなさい・・・!」

 そもそも僕がこんな素敵な人の傍にいれることがおかしかったんだ。早く離れていればよかったのに、なんで・・・なんで僕はユリちゃんにキスなんてしてしまったんだろう。ユリちゃんは案の定顔を俯かせて震えている。泣かせてしまった、その事実に頭が真っ白になる。怒鳴られると覚悟して目を瞑ると、服の端をキュッと掴まれた。それに思わず目を開けると、真っ赤な顔のまま僕を見上げるユリちゃんが唇を震わせていた。

「しげお・・・」
「う、うん・・・」

 そのなんだか熱が篭っているような瞳にごくり、と喉が音を出す。

「い・・・」
「?」
「い、イヤ、じゃ、なかった・・・」
「・・・えっ」

 イヤじゃなかった。彼女はそう言ったのだ。なぜだか胸がキュンと締め付けられるみたいになって、思わず僕は自分の胸の中にユリちゃんを閉じ込めた。柔らかくていい匂いが僕の鼻に入ってくる。優しく細い腕が背中にまわり、僕を抱きしめた。それになんだかもっと抱きしめたくなって僕とユリちゃんの隙間がなくなるくらいに抱きしめた。柔らかくてすぐ折れちゃいそうなユリちゃんは、僕が守ってあげなきゃいけないのかもしれない。

「ユリちゃんのこと、一生守らせてください」
「えっ」
「え?」
「てっきり告白されるのかと・・・」
「あ・・・」

 そうだ、これじゃあプロポーズじゃないか。力を緩めて僕の腕の中にいるユリちゃんはクスクス笑っている。恥ずかしい・・・。

「もう、笑うのやめてよ・・・」
「ごめん、だって・・・」
「もう!」
「ふふ、こちらこそ、一生守ってください。ね?」

 今度はユリちゃんからギュッと可愛く抱きしめられて無性に愛おしいと感じた。ユリちゃんがよぼよぼのおばあちゃんになるまで、ずっと守ってあげるからね。



リクエストありがとうございます。梅の花言葉、高潔・・・難しかったです!でもとっても楽しかったです。有難いお言葉もありがとうございますありがとうございます。どうぞこれからも0120と櫻を宜しくお願いします。

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