採用と無罪
「いやいや!まさか鬼と名高い土方副長がまさかこんなに美形だったとは!!」
「……いや、」
「こんな方の下で働けたら幸せなんだろうなぁ!!いやもちろんお登勢さんのところでもキャサリンがいるものの幸せですよ!そうごくん?といいもしかして真選組は腕っぷしだけでなく顔面の偏差値まで高いのでしょうか!」
「おい変態女。どこでオレの名前を知った」
「やだなぁ!先ほど副長さんが呼んでいたじゃないですか!」
「勝手に呼ぶんじゃねェ。お前に呼ばれると虫酸が走る」
「え、それじゃあ苗字教えてもらっていいですか?」
「………………………大串」
「大串くんですね!」
「ぶふっ」
面接なう。
そんでもって土方副長の眩しさに目が潰されてるなう。
さらさらストレート少年は大串そうごくんというのか。
珍しい?苗字だなぁ。少なくとも私の周りにはいなかった。
やはり大串くんは私を苦手としていて、本調子が出ていないのだろう。土方副長が大串くんの様子に大笑いしている。
イケメンは大笑いしてもイケメンだな。
「……あー、で。朝の食堂担当だったな。」
「はい!朝のお仕事って新聞配達はちょっとした事情でできないので……こちらとしてはここがすごく都合のいい職場だったんですけど…」
「…事情?」
「いろんな配達バイトやり過ぎていざこざが……」
嘘ではない。
朝は新聞配達、昼は睡眠、夜は組織という生活をしていたから、組織を抜けた今、
組織はおそらく配達のバイト先や似たような所に根を張っているだろう。
ここは警察だから組織が手を出せるわけもないし、
お登勢さんは個人営業だから心配ない。
昼間は短期や単発バイトを偽名でちらほらして稼いでいるし……
朝昼晩と安全に仕事ができるのは助かるので、できることならここがいいのだけれど………
「……………まぁ何でもいい。こちらとしても、朝から俺たちの顔を見て飯作りてぇなんてやつなかなか見つからねぇから助かる。」
「!…ほんとですか!やった!!朝からイケメンパラダイスや!!イケパラだ!!」
「いつからいける」
「明日からでも大丈夫です!」
「わかった」
トントン拍子で話が進んで、少し怪しいくらいだけれど、私の安全安心な社畜ライフが始まることを考えたら神だった。
スナックお登勢も夜の仕事とは言え、明け方に来るお客さんは酔いつぶれてほぼ寝ているので、普通に睡眠時間が確保できるホワイトな仕事だ。
朝早くてもなんとかなる!
「休みはどのくらい欲しい?」
「1日2日あれば十分です!」
「よし決まりだ。……………あ、そうだ。」
採用が決定し、私の履歴書を床に放った土方副長は思い出したように斜め上を見つめ顎に手を添えた。
なんて男前なポージング。惚れ惚れしてしまう。セクハラしたい。
「お前、逮捕されるような事はしてねぇよな…?」
眼光鋭く睨み付けてきた土方副長の質問に、私は少し肩をあげてしまった。
それに気づいた土方副長は、私が口を開くのを待つように見つめる。
心なしか殺伐とした空気が、左隣にいる大串くんからも伝わってきた。
………これは、誤魔化せない。
私の顔には焦りと緊張が分かりやすいほど貼り付けられていたからだ。
「……………っ…」
これを言えば逮捕されてしまう。
そうだった。
私はれっきとした犯罪者じゃないか……
「…………すみません…」
手錠を嵌めやすいよう、両手首を土方副長に向けた。
ごめんなさい、お登勢さん。
私、もうあなたの元に帰れません。
「…………坂田銀時さんの、パンツ盗みました」
「無罪!」
「いや土方さん、こいつ今のうちに逮捕すべきでさァ。エスカレートしてからじゃ遅いですぜィ」
「いやむしろあの男に害があるなら俺はこいつを弁護する。」
お登勢さん。
私まだあなたの元に帰れました。