「あらぁ八木さんいらっしゃぁい!」
「っ…!!!!!、?」
「いつものお願いします。………えと、そちらはもしかして…」
「ええ、うちの娘です!」
神よ。おお神よ。
私もしかしてとんでもなく良いポジションに転生致したのか。
轟邸訪問を明日に控えた私は、本日は父が久々の出勤のため母の仕事先、近所のカフェに朝早くからお邪魔した。
店長には許可を得たらしく、カウンター席でおとなしくタブレットを持ちオールマイトを眺めていた。
"あら。偉いのねぇ"
と、母と同じくパートで早番だったおばちゃんに褒められて、このままおとなしくしていようと思っていたその時だ。
本日一人目のお客様がお見えになった。
母は言った。「八木さん」と。
金髪で独特の髪型。
頼りない猫背にブカブカの服。
オールマイトのトゥルーフォーム、八木俊典じゃぁないですか!!!!!!
「はじめまして、君がナマエちゃんか。
お母さんに似て可愛らしい顔立ちだ」
「やだぁ!八木さんったら!」
「…ぁ……あぅ…」
「あら、ナマエちゃん?ご挨拶は?」
そこでハッとした。
少なくともここで彼をオールマイトと呼ばないということは神野区の一件より前だ。
彼はヒーローであることを隠している。
ならば私もオールマイトと呼ぶわけにはいかない。
絞り出せ。この3年で鍛えたポーカーフェイスを!!!
Puls ultraぁぁぁあ!!!
「はじめまして、ミョウジナマエです!さんさいです!!
やぎさん!」
「礼儀正しい子だなぁ、HA-HA-HA!」
びゃあああああああああ笑ったぁぁぁぁぁああ!!
推しが目の前で笑う、何て幸せなんだ。
しゃ、写真…いや3歳の私にカメラなぞない!!
どうしよう目に焼き付けよう!!!
だがそんなんでおさまるもんじゃない!!
なにか、何か物に!!
………………絵にしよう!!!!
へったくそだけど!!!それでも何か物にしないと収まらない!!この興奮!!!
「おや、その動画…」
「お、おーるまいと!だいすきなの!」
「……そうか。」
ぎゃぁあああああああああ照れてるうううううう!!!
きゃんわいい。ロリっ子なうな私にも引けを取らない何て可愛い顔!!!
すき!!すき!!!ラブ!!!
「やぎさんのこえ、おーるまいとににてる!すきぃ!」
「え!?え、あ、HAHAHAHA!そうかなぁ?ありがとう!」
「そういえば話し方も似てるわねぇ。見た目は正反対だけど」
「ええっ、あ、えっと」
焦ってる可愛い。
もうこの生き物なに。めっちゃ可愛い。好き。
私は子供の体を最大限に活用することに決めた。
子供なら多少パーソナルスペースを踏み荒らしても許されるだろう。
私はオールマイトの膝の上にどかりと座った。
「ぉっと、」
「あらあら、ナマエちゃんだめよ!」
「いや、構いませんよ。あまり子供に好かれないので嬉しいです」
「やぎさんすき!ナマエやぎさんといる!」
カウンターテーブルとオールマイトに挟まれ、オールマイトの意外としっかりした胸板に頭を預ける。
私は今、推しの膝の上にいるんだ!!!!
世界の中心でそう叫んでやりたい。
どうせ明日は轟邸で精神をすり減らしていくんだ。こんな運命の出会いで調子乗るくらい許せ。
「ずいぶん八木さんになついちゃったわね…パパよりも」
「旦那さんには内緒でお願いします」
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