10

目を開いたら、よく知る天井。

あれ、なんでうちの天井があるんだ?ここ轟邸じゃね?

なんて思った後、ああ、運ばれたのか。
と考えて、両親に迷惑をかけてしまったことを反省した。





「目、覚めたかい?」

「!?」





家だということで完全に油断した。

隣から聞こえたのはなんと八木さんの声。

嘘やんなんでいるん??夜這い??夜じゃねぇわ。


え、母は?父は?どこ??
なんで家に八木さんいるの??




「2日も目を覚まさないと聞いてね。心配で来てしまったよ」

「ふつ、か………」

「今日で3日目だ。二人は仕事に出ているよ。」





呆然とする私に構わず、聞けなくてもいいからと一応状況説明は続けてくれた。

二日間睡眠も取らずに私に付きっきりだった二人は仕事を放棄していた上に精神的にも心配や緊張で疲れきっていた。

いつもいる母がいない為他の店員に話を聞いた八木さんは母と連絡を取り、今日だけは八木さんと代わり、今後の話等を仕事先にする為に一度外出したらしい。

そのあと、まだ八木さんが急な用事などがない場合は母と父を休ませるようにすると言った。





「…………先日、君はとても賢い子だと私は言った。

それを取り消すつもりはない。君は自身が何をしたのか分かっているね?」


「………………」




友達を助けたかった。

その気持ちはとても人間として良いものに聞こえる。

しかし、冷静さを失った時点で、私は"善人"ではない。


エンデヴァーは世間的に大きな力を持った人物で、我が父の上司だ。

母のアルバイトはあっても、家の生計を支えているのは父。

そのエンデヴァーの家庭の事情に、首を突っ込み引っ掻き回すのは父と母にどれだけの迷惑をかけるか知れたものではない。




そしてなにより、"一発決めただけ"の私はただの自己満足で、

友達を助けられなかった。






大切な人を守るヒーローになる?

こんな無様なのに?






「……………ごめんなさい。」

「………君は何に謝っているんだい?」

「パパとママにめいわくかけた。エンデヴァーをきずつけた。れいさんをむしした。あと………」

「あと?」





八木さんが"なれる"って言ってくれたのに





「ひーろーに、なれなかった」







馬鹿だ。

馬鹿だ。


馬鹿だ。




轟焦凍が救われるのは高校一年の春。

緑谷出久と出会って、
体育祭で"父の炎の個性""母の氷の個性"とずっと思っていた轟焦凍に"君の力だ"という真摯な想いが届いた。

精神を病んだ母、轟冷との和解を経て、

友達を助ける側の人間になり、


改めて、自分の意思でヒーローを志す。




このストーリーに私の介入は必要ない。




私は何もしなくて良かったんだ。


なのに、


なのに、









どうしてまだ、


今すぐ"焦凍くん"を助けたいなんて思ってるの?






「やぎさ、やぎさんが!やぎさんに!私、"すきなひとまもるひーろーになりたい"って言った!ちかった!!

ははも、ちちも、れいさんも、だいすき!だいすきで!ほんとうはすごくすきで!まもりたい!

しょーとくんもまもりたい!


なのに!

ママにもパパにもれいさんにもめいわくかけて!

しょーとくんたすけられなくて!

エンデヴァーたたいただけ!こんなのちがう!じこまんぞく!!!」





もう呼び方がぐちゃぐちゃだ。

八木さんはどんな顔で聞いているんだろう。

呆れてるかな。

呼び方に違和感を感じてるかな。

失望したかな。


ううん。きっと違う。




優しいこの人は、


涙でぐちゃぐちゃになった私を、パジャマ姿で髪の毛もボサボサの私を、

訳のわからないことをいう3歳の私を、



真剣に、一人の人間として向き合ってくれてる。




ほら、顔をあげた先には、いつものとびきり優しい大好きな笑顔。




「…………たすけたかった」

「うん」

「エンデヴァーがゆるせない」

「うん」

「どうすればいいの?」








「強くなろう。
強いヒーローになって、大好きな人達全員を守ろう。」








いつもみたいに頭をなでるんじゃない。


まるで私が八木さんと対等かのように、拳をこちらに向けてニカッと笑う。








「……………っ…うん」






八木さんの固くて大きな拳に、柔らかくて小さな拳をぶつけて、


また私は平和の象徴に誓った。




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