▼ もう一度、
親父さんに初めて会った時、私の人生は否定された。
白ひげ海賊団の中の親子関係は、あまりに優しく、あまりに暖かい。
その頃の私にとっては、触れれば身体が燃え尽きてしまう太陽のような関係だった。
親父さんが暖かい瞳を向けて"エース"と呼び、
エースが好意を全面に出した笑顔で"親父"と呼んだ。
ただそれだけの行為に、
私がこれまで積み上げ、常識としていた"
どうしようもない怒りと悲しみに困惑し、叫び散らした。
私を落ち着けようとして近づいたエースの頬を精一杯の力で叩いたとき、ふと我に返って絶望した。
こんなにも近くにいるのに、私とエースは遠いのだと。
やはり私は一人だったのだと。
おそらく私は思っていること全て口に出していたのだろう。
エースは私の気持ちに答えるように口を開いた。
"俺たちが家族になるんだ。一人な訳ねぇだろ。"
***
「よく来たね、弱虫娘」
「そ、その言い方やめてくれませんか……」
「弱虫で中途半端で泣き虫な君にはちょうどいい呼び方じゃあないかい?」
「う……面目ない……」
ルスカイナ島に到着するや否や、笑顔で近寄ってきたレイリーさんは棘のある歓迎をしてきた。
それでも今回のことに関して何も言ってこないのは、泣き腫らした私の目元と、
握られてシワが寄り、涙で湿っているハンコックの綺麗な服を見て、
レイリーさんが言わんとしていることを知っていると気づいたのだろう。
ごめん、マジでありがとうハンコック。
「私はどうだっていいんだよ。その逃げ腰のまま新世界へ入れば死ぬのは君だしね」
「ひぃ…」
「ただ、船長になる男になんの説明もないのはいかがなものかと思うが?」
「………」
レイリーさんが目を向けた方に視線を送ると、少し離れたところにルフィくんがいた。
相変わらず傷は増えているが、どこか一月前とは気迫が違った。
そうだ、ルフィくんと話さなければいけない。
「す、すみません…一月も……その……避けてしまって……」
「いいさ。俺なんかしちまったんだろ?悪ぃ。」
「いえ、ルフィくんは何も悪くないんです!私が中途半端で……弱虫で。」
「ふーーん……ま、いいや」
………どうでもいいんだろうか……
先程からのあまりにも軽い対応に拍子抜けしてしまう……
「俺のこと嫌になったか?」
「………そ、」
そんなわけない。
エースの弟で、
無謀にも兄のために海軍本部に殴り込みにくるような勇敢な人で、
仲間を大事にしている優しい人で、
兄を失っても立ち直れる強い人で、
明るい笑顔の太陽のような人。
エースみたいな人。
でも、エースみたいだから……
「………嫌じゃなくて…こわかった、んです。」
「怖かったかぁ」
「はい、エースそっくりで…わた、私は、まだ
まだエースの死を受け止めきれてなくて、でも無理やり立ち上がって、
それで…エースを思い出すと辛いから、思い出させるルフィ君が、」
怖かった。
そういった途端、涙が溢れてきた。
怖かったの。
もう大丈夫だと思ってたのに大丈夫じゃなくて、
大丈夫じゃないと気づいたら、私を傷つけるルフィ君が
とても怖い存在になってしまった。
でも、
「仲間になりたいと言うのは、嘘じゃないんです。
エースの意思を見たかったのも、親父さんが君に託した
全部本当で……」
ルフィ君は黙って聞いてくれてる。
待ってくれてる。
船長を待たせるなんて……海賊として愚か極まりない。
踏み出せ、今度こそ。
あの父親と、白ひげ海賊団とエースしかなかったこの世界。
父親は自分が捨てて、白ひげ海賊団はもうない、エースは死んだ。
世界が滅んで、
だけどその先には、新しい世界が広がってた。
その
私に自信を付けてくれる
弱い私も強い私も認めてくれる
ルフィ君に付いてくことで、もっと広がる。
踏み出せ、ルフィ君なら大丈夫。
誇れ、あの眩しい2人を。
「……だから、」
変わらない想いをもう一度。
「……私を、仲間にいれてください……ルフィ」
「……………にししっ!お……あ、返事はまだだ!」
ルフィの表情を見れば、返事は明らか。
強くなろう。
この人を守るためにも。
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