「くそじじい!!!」
信じられない。と思った。
つい最近ゼフさんに拾われた金髪の同い年のガキ。
こいつの所為でゼフさんは片足を失ったというのに、"くそじじい"ですって?
叩きのめしてやる。
「サンジ、でしたっけ?私はアイ。よろしく」
「お、おう……よろしく……」
純粋にも、可愛らしい顔つきの私に顔を赤らめるクソガキは、次の瞬間視界から消えた。
私が握手した手をそのまま振り上げたので、上に飛んでいったのだ。
「…うわぁ!?っが!!!」
着地に失敗したようで、汚い悲鳴が聞こえた。
周りの皆は驚きこそしたものの、私の性格を知ってるため、納得したように"もっとやれー!"と歓声を上げ始めた。
クソガキは起き上がって、"何すんだよ!!"と抗議の声をあげる。
何すんだよ?なめてんのか。
「偉そうな口叩かないでくれる?負け犬の遠吠えみたいで見苦しいわ」
「なっ!!この怪力女!!お前性格悪いだろ!!」
「だから何。その性悪女に頬染めて、油断していたおませさんは誰よ。」
「染めてねぇよお前なんかに!!」
「あら、じゃあ油断してないのに飛ばされたの?無防備ね」
「なんだと!!生意気な女!」
同感だ。
この生意気なガキが。
それからは顔を付き合わす度、つまり一日中ケンカをしていた。
サンジは私に対抗して力をつけてきた。
それでも敵うはずもなく、いつも完膚なきまでに叩きのめされている。
最初はゼフさんも眉を潜めていたけれど、何故か私たちの喧嘩を受け入れ始めた。
女性は蹴らないというゼフさんの信条に反しているのに…何故?
サンジは諦めることを知らないのか、毎回挑んできて、
私からケンカを売らなくてもケンカになるから、私から挑むことはなくなった。
ある日、彼は珍しく普通に話しかけてきた。
顔がムスッとしていたけれど。
「なぁ」
「何?」
「お前、どんなときに泣く?」
「…………は?」
急にそんなこと聞くもんだから驚いた。
どんなときに泣く?
ゼフさんのところに来て以来、涙なんて流したことがない。
「だってお前、海王類来てもビビんねぇし。この前の島で気持ち悪ぃ虫出たときも平気だったし。それに……」
「それに?」
「…………いや、とにかく気になった」
「サンジは面白いくらい怖がってたわね。あの虫毒ないわよ」
「気持ち悪ぃから嫌いだ」
それで純粋に興味が出たってわけね。
最後に泣いたのはゼフさんと初めて会った時だったわね。
あのときは………
「………強いやつに」
「お前より?」
「そう、私より」
「私より強い奴に、屈したとき…かしら」
心が張り裂けそうなくらいの絶望だった。
ゼフさんに拾われなかったら、クレアさんに助けられなかったら、まだきっとあの中にいたのだろう。
支配されて、壊されて、それでも、生きなくてはいけなくて、
私、あそこが怖くて仕方ない。
あいつらに敵わない。
きっとまた彼らに会ったら、私の心は折れるでしょうね。
サンジ、諦めなさい。
一生敵わない相手って、いるものよ。
私はあいつらに、
サンジは私に、
一生敵わない。
「じゃあ俺がお前を泣かしてやる」
「………は、」
真っ直ぐと貫くような瞳が向けられた。
彼はまだ分かっていないのか。
自分より元から強いやつに勝とうと努力したところで、強いやつもさらに同じ時間鍛えている。
敵うはずがないいたちごっこなんだ。
「無理よ」
「無理じゃねぇよ!!絶対ェ勝つ!!そんで泣かす!!」
「本当にクソガキね。無理」
「かぁーーーー!!!絶対やってやる!!」
彼はそれから"今日こそ泣かす"と言いながら挑んでくるようになった。
諦めず、毎日毎日。
飽きもせず。
「だんだん、楽しくなってたのか…わたし」
今となっては、サンジとの出会いすら、宝物のような麦わらの思い出の中に入っている。
楽しかったの。
全部。
全部、
私の宝物だったの。
prev next