「ロビンは、死にたいと思ったことある?」
「あるわよ」
「……即答ね」
"つい最近の話だもの"と微笑む彼女には、
暗く重い話題をしているとは思えないほどに明るかった。
おそらくその"最近"とはアラバスタでのことだ。
彼女は仲間に入ったとき"生きる意味がない"と言った。
生を諦めた彼女をルフィが勝手にも助けたそうだ。
「どうしたの?」
「んー……死にたいって思ったことないから、純粋に疑問だったの。どんな気持ちなのか」
「あら、貴女結構苦労してそうなのに意外ね。」
「生き抜いてやる。死んでたまるか。って逞しく幼少期を過ごしていたわ。」
「…そう」
出会いからずっと思ってた。
"死にたい"って、どんな気持ち?
「どんな気持ち…だったかしら…」
「あ、ごめんなさい…思い出したくないなら…」
「大丈夫よ。」
ロビンは少し考える素振りを見せる。
何かに耐えている様子はなく、悲しそうな表情すら浮かべない。
彼女は思い出して辛くならないのだろうか。
命を投げ出すほど絶望していたのに。
「………心が異常に軽かったわ」
「え、そうなの?」
「ええ。
死にたいってことは、生きてる間にかかっていた責任や使命感を全てあきらめて、この世の中で最も楽な状態になりたいってことよ。
だから今まで心が重かった分、空も飛べそうなくらい軽くなったわ」
「…へぇ……」
心が……
そんな感覚、病みつきになってしまいそう。
"死にたい"って追い詰められてグチャグチャになってもう全部投げ捨てたい、逃げさせて、って渇望する嫌な感情だと思っていた。
「もちろん、感じ方なんて人それぞれでしょうね。状況とかもあるだろうし。」
「なるほど。」
じゃあ私がロビンのような感覚を感じる可能性もあれば、その逆もあり得るのか。
じゃあ結局分からないわね。
「でも、嫌だわ」
「え?」
「この船のクルーが、用心棒さんが"死にたい"なんて思ってしまったら」
ロビンはきっと、この一味が大好きだ。
この一味は騒がしく、明るく、優しい。
もう一度言ってしまうが騒がしい。
今まで暗闇にいた彼女には眩しく、宝物のように思っている。
「安心して。今のところ感じる予定はないわ。」
「そう、ならよかった」
それは私も同じこと。
バラティエも、麦わらも、
楽しくて、大事で、大切で、
絶対に誰にも侵されたくない。聖域のようなもの。
ロビン。
私たちきっと似てるわ。
だから
「………ぜったい、」
同じこと、しないで
吊るされた手錠で倒れることも許されず、
男たちが去った小屋で一人、呟いた
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