「うがぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
「だから、天小人でも壊れない手錠だって言ったでしょう」
合流したルフィは、私の手錠が取れないと言うと、大層手錠がお気に召さなかったのか噛みついてきた。
この手錠は、私の長年の勘違いから私には壊せないと諦めているのではなく、
事実、昔から島で最も強いとされる歴代の長たちすら壊せない逸品だ。
私も何度か蹴りをいれているけど、全く傷が付かない。
躍起になって叫び散らすルフィが鬱陶しいので、脳天にチョップをお見舞いすると、頭から煙を出して大人しくなった。
「んで?長ってのはどこにいんだ。」
「山の入り口に大きなお屋敷があったでしょ?あそこよ。」
「「??」」
「………………貴方たちどこから入ってきたのよ」
あんなに目立つんだから入り口から入ったなら分からないはずがない。
さては反対の裏山から入ったな。
まぁ、コイツらがご丁寧に入り口から入るような殊勝な奴らには見えないから、少し納得するけれど………
「まずは、長の屋敷にいく。そこで最優先で手錠の鍵が欲しいところね………」
「鍵だな!任せろ!!」
「ルフィは暴れて。」
「おう!!任せろ!!」
コイツが鍵を探しに行ったとして、どうせ騒ぎを起こすのは目に見えている。
ならもう、最初から暴れて陽動に利用するしかない。
その方が効率的だわ。
「ルフィ、皆は………」
「あ!そーーだ!アイツらどーこいったんだ??アイ探そうって言ったのによー!
いつの間にかいなくなってよー!」
「アァ!?てめェナミさんとロビンちゃんをこんな化け物島に置いてきたのかァ!?下ろすぞ!!!」
ルフィはおそらく勝手にはぐれたんだろうな………
この調子だと、ゾロも勝手にはぐれててもおかしくない。
となるとナミたちのメンツはナミ、ウソップ、チョッパー、ロビンか。
頭の回るメンツだけど戦闘力には欠けるものがあるわ……
馬鹿力4人と離れた状態でこの島ウロつかせるのは危険すぎる。
「サンジ、ナミたちを探して。」
「ア?てめェの鍵はどうすんだ」
「私が探すわ。ルフィの陽動もあるし。それよりもナミたちが心配だから、アンタについて欲し……」
小屋から脱出して初めて、サンジの顔を見た。
"その女、泣かすのは俺だ"
"立て馬鹿野郎!!お前は強ェ!この俺よりも!
この島の誰よりも!"
"はっ、その顔がお似合いだ。生意気女。"
"当たり前だ!!!!"
何故こんなにも、サンジの言葉ばかりを思い出しているんだろう。
「…………サンジなら、私以外に負けないもの。」
何故こんなことをサンジなんかに言っているんだろう。
「生意気女が殊勝なこと言うようになったじゃねぇか。」
「天小人を自分よりも弱いと大見栄切ったんだから、それくらい信用させてくれるんでしょ?」
「ったりめーだ。あんな野蛮人どもにナミさんやロビンちゃんを好き勝手させねぇよ。」
何故、いつものとおりナミとロビンだけが名前をあげられてるだけなのに、
胸が痛むの。
「……………」
「?……どうした?アイ?腹でも減ったか?」
謎の胸の痛みに俯く私の顔を覗き込むルフィ。
彼に心配をかけまいと"なんでもない"と咄嗟に言うも、そこで引き下がる男ではない。
「サンジ、なんかねェのか?アイ腹が減ったってよ」
「いや減ってないって」
「事が済んだらカレー作ってやるから安心しろ」
「おー!!!!今日はカレーかぁ!!肉いっぱい入れてくれ!!」
「…………なんで、カレー?」
私は、あの呪いの詰まった小屋からクレアさんに助けてもらった。
今にも島から飛び出しそうなクレアさんを必死に止めて、妹を頼んで、
たまたま島の近くを通った船に向かって手枷をしたまま泳いだ。
その船はゼフさんの船で、船に充満した美味しそうな臭いに、
忘れかけてた空腹感を思い出した。
そして泣き出した私に何も言わずにゼフさんは、
カレーを差し出してくれた。
「……?……お前カレー好きだろ」
「そうなのか?」
「………………」
言ったことない。ゼフさんにも。
あのとき食べたゼフさんのカレーが、人生で一番美味しくて、忘れられなくて、
食べることを放棄した私が、カレーが大好きになったことなんて、
誰にも言ってなかったのに。
「……………よくわかったわね」
「見てりゃ分かるさ」
ああ、彼は、
私を喜ばす天才だ。
初対面で投げ飛ばしたり、顔を会わせる度文句を言ったり、
自分より強い可愛くない女を、
いつも彼は見ててくれたんだ。
「……………大好きよ」
「俺もカレー好きだ!」
大好きよ、サンジ。
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