屋敷は広い。

そして手錠の鍵は最上階、長の部屋にきっとある。



確信はないけれど、手錠の鍵を長以外が持っているところを見たことがない。

クレアさんが私を助けてくれたとき、彼女は手錠の鍵を見つけられなかったと謝ってきた。

長を避けるあまり長の部屋だけを探せなかったんだ。


あの時の手錠はしばらくつけっぱなしで、たまたま着いた島でゼフさんとはぐれた時に出会ったおじさんに両断して貰えた。

あとで知ったが、まさかあのおじさんが王下七武海の鷹の目だったとは。

そりゃ真っ二つにできるわ。



「手錠のハンデ付きで長とは戦えない。

まずは長を長の部屋から出さなきゃ。」



てことで使えるのが我が船長、ルフィ。

勝手に暴れてくれる。


私は屋敷を見渡せる高台から様子を見ている。

そろそろ向かうかと腰を上げた頃、裏庭から屋敷に入っていく影を見つけた。

あれはゾロだわ。

案の定一人で迷子になっている。


しかもどうして裏からなの。

どうして森から出てきて屋敷に入るのよ、どう言うことよ。

まぁいいわ。アイツの方向音痴は理屈じゃないもの。



それよりも囮要員が増えたことを喜びましょう。

あの2人ならやられることはないし、長も確実に顔を出す。




「……順調そのもの。行こう。」




この島をぶっ壊して、もう一度いくんだ。



みんなのいる海へ




****






森の木から屋敷のベランダに移り、ジャンプで屋根の上へ飛ぶ。

あまり音を立てないよう注意を払いながら最上階の窓が見える端まで移動する。

庭の見張りはルフィとゾロが暴れてるお陰で屋敷内に入った。

屋根の上が見れる者などいない。

長の部屋が見える天窓を見つけ、そこから覗くと、長がいた。



現長、バルマ。

齢14で長を決める武力大会に参加。
当時の参加者全員をあっという間に気絶させ、前長を一方的に虐殺したと言われている。

強い者が長。殺しは問題ない。


バルマを倒さなきゃこの島は壊せない。


今までこういう戦いで、敵のボスはルフィが倒してきた。

でも、今回はそうはいかない。

私が倒さなきゃ。


ルフィを信用してないとかそういうのじゃなくて、


私がケリをつけなきゃいけないから。

ここでケリをつけなきゃ、



一度傷つけたみんなに顔向けできない。




バルマの部屋に男が入ってきた。

長の側近だ。

焦った様子で何かを報告してる辺り、ルフィとゾロが暴れて手をつけられないことを報告しているのかしら。

良い気味だわ。あんなに慌てちゃって。



「よし。行ったわね」



天窓ははめ殺しだから外すか割るしかない。

もう少し長が部屋を離れてから割ったほうがいい。


少し待ってなるべく音を立てないよう、三角割りのように窓枠とガラスの間に向かって指を立てて突く。

前にナミが音をなるべく立てずにガラスを割る方法として教えてくれた。

泥棒にでもなった気分だ。




大きな破片が落ちればさすがに音が立ってしまうので割ってすぐに部屋のなかに降り、空中のガラス片をキャッチして床へおいた。


なんとか音は出すことなく部屋に入れた。

あとは鍵を見つけるだけだ。




あからさまな金庫が大きな絵画の横に取り付いている。
この中にあるかもと思い、外側に扉が歪むよう中心にケリを入れて扉を開けた。

中には小難しい資料や島周辺の地図、バルマ個人の所有している金品などがほとんどで、鍵など見つからなかった。


他に鍵を保管できそうなところを調べても何も出てこない。


ベタだが大きな絵に何か仕掛けでもあるのではと触ってみるがなんの変化もない。





「うーん………長の部屋じゃない、とか…?」




いや、この部屋以外はあの時クレアさんが全て調べた。

あの時と今の間に鍵の保管場所を変えたとか?



「ん?」



外が騒がしいな…


もともと騒がしかった窓の外が更に騒がしくなってきた。

何事かと思い、身を隠しながら外の様子を覗いてみれば、

そこには私が泣かせてしまったオレンジがいた。







「…………な、み…」





それだけじゃない。

ウソップも、ロビンも、チョッパーも、ついでにサンジもいる。


会わせる顔があるだろうか。


いや、あの人たちはきっと気にしてない。


また変わらない笑顔を私に向けてくれるんだ。




「みんな………」




やっぱり、私は皆のそばにいたい。


皆と海を見たい。





「……がんばる。がんばるから……今度は、」



皆との約束守るよ。



窓に触れていた手を離し、また鍵を探すため振り返る。


あの時の恐怖が、顔を出した。








「久しぶりだな。アイ」




"罪人の娘、お前には今日から父の罪を背負ってもらう"



「………………バルマ」






押し潰さんばかりの気迫を背負った大男が、部屋の入り口に佇んでいた。

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