「……………本当は私、あの子を見殺しにしようとしていたの。」
「!」
「結局は私も懲罰小屋に入るのが怖かったのね。
あそこに入ればもう助からない、助けられないと思ったから。
だから、アイちゃんが死ぬ前にユーちゃんとこの島から逃げようと思ったの。
だから、どのくらいの猶予があるか確認するために懲罰小屋を覗いたのよ。」
この男の子は、本当はとても優しい子で、とてもアイちゃんと仲が良かったのね。
このぐらいの男の子なんて普通、カッコつけで不器用な子が多いのに…………
この子は、泣きそうに、悔しがってる。
全部表情に出てるわ。
「私は本当はあの子に感謝されるべき人間じゃないわ。
寧ろ謝らなくてはいけない……」
「でも、貴女はあいつを助けた」
「…………」
結果的にはそうなった。
だけど私は子供だと思って見くびって、
彼女がどんな覚悟で懲罰小屋に入ったかも知らずに我が儘を通そうとした。
これは、彼女に裁いてもらわなくてはいけない立派な罪だ。
「あの子はね、必死に妹を守っていたのよ。」
「…守る?」
「そう、懲罰小屋のルールは"罪人が死亡した場合、遺族で近しい人間がその罪を継ぐ。"
アイちゃんが死ななければ、ユーちゃんに罪が回ってこない。」
「…っ!……つまりあいつは、」
殴られても、
蹴られても、
血反吐を吐いても、
身体の内も外も傷ついても、
ご飯を与えられなくても、
何をされても、根気だけで生き抜こうとした。
"自分が生きて、妹が嫁に出て家族から外れるその日まで、守り続ける"
その信念だけで、半年あの小さい身体を生き長らえさせた。
「………っ…わかるでしょう…ここの人たちは皆化け物よっ!
10歳にも満たない子供に、そんな…そんな責任を負わせ、笑っていられるこの島なんて……こんな恐ろしい島なんて…!
宝物にこんな島を近づけさせたくないに決まってるわ!!」
金髪の彼に背を向けて、涙を拭いながら
10年ぶりに会い美しく成長したあの子の言葉を思い出した。
"クレアさん、海賊に会ったら…………お願いします。"
あの子は私に、この子達を追い返せと言った。
でも、嫌よ。
もう二度と、あの子を懲罰小屋になんてあげない。
この子達と私が手を組んで、せめてアイちゃんとユーちゃんだけでも逃げてほしい。
ごめんね二人とも。
あの時も今も私、大切な人しか守りたいと思えない薄情な人間なの。
振り替えって彼にお願いをしようとしたとき、私は驚き、そして嬉しく思った。
彼は、もう走り出していた。
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