「……助けてって…」

「今ちょうどアイちゃんの所に殴り込みに行くところだったの!貴方も着いてきて!」

「え、や……」




先程まで優雅で落ち着いた印象だったマダムはひどく取り乱し、"殴り込み"なんてその容姿にはおよそ似つかない言葉を口にした。

クレア、その名前はあの生意気な幼馴染みの口から何度か聞いた名前だ。

服装も口調も真似るほど尊敬していた。




「………マダム。俺は確かに、アイツとは10年近い付き合いになります。が、」





麦わらの一味としては、今アイツがどういう立場なのかを知らなければいけない。





「……………あの子は、貴方たちに笑顔を見せたことがある?」





およそいい返事とは言えない俺の言葉を聞いてもなお、固い意思を宿した瞳で見つめ返すマダムに、少し怯んだ。

さすが、あの気難しい生意気女が惹かれるだけある。

この女性は"心"の強い女性なのだろう。




「あります。うちの船に笑顔じゃねぇやつはまずいません。」

「………なら、あの子にとって貴方たちは宝物だわ。」

「………………本人も、そういっていました。」





ロビンちゃんとよく話していたあの女は、よく口にしていた"宝物"という言葉。

それにどれだけの想いが詰まっているかは、アイツの性格を考えればよくわかる。





「もしかして、貴方たちはアイちゃんに酷いことをされたんじゃないかしら。

普通なら、仲間としては見れなくなるほどの。」





全くその通りだ。

蹴り飛ばされてから何があったかは知らないが、アイツは海が弱点である能力者三人を海へ突き落とし、
残った俺達を文字通り蹴散らした。

仲間のすることじゃねぇ。

普通なら全員船に集まり、アイツを罵り、島を出るだろう。





「それはそのはず。あの子はこの島に貴方たちがいることを望まないわ。

こんな、化け物の住む島なんて…!」






***






「あーあ、死んじまったな」

「可哀想になぁ?犯罪者の旦那が死んで、罰を継がなくちゃいけないなんてよ」

「ギャハハハ!お前が可哀想とかいうのかよ!一番あの女鳴かせてたのお前だろ!」






汚い会話。

汚い声。

汚い心。



どうしてこの島の人達は、こんな悪しき風習に抵抗がないの…?

ニットの帽子を作る手を途中で止めて、窓の外の下らない男たちに目を向ける。

彼ら三人は、この島を……天小人あまこびとの住まうこの島を治める三人の長。

そしてこの島の法の一つには、忌まわしい風習がある。




罪人の家族も、また罪人。





罪人は、森の中にある懲罰小屋という小さな小さな古い木造の小屋で長や長の許可した者たちが罰を与える。

"罰"といえば聞こえはいいけれど、それは実質長たちの"憂さ晴らし"。

男ならば死ぬまで暴力を与えられ、

女ならば死ぬまで犯される。

罪人が死ねば、その配偶者、子供、親。
一人ずつ順に懲罰小屋へ入れられる罪人となる。


今回、身勝手な長に歯向かい敗北してしまった罪人は、妻子のいる男性。

数年前に暴力に耐えきれず亡くなってしまった。

次の罪人はその妻となり、二人の娘を守るためずっと耐えていたものの、先日亡くなってしまった。


そして、次は姉のアイちゃんというまだ6歳の女の子。


大人の女性ですら5年ももたなかった罰を、果たしてどこまで耐えられるか……

彼女の次となる妹はまだ4歳くらいの幼い子供。

罪人になるまでは同じ島民として大事にされるから、誰かがその子の面倒を見なくてはいけない。




私はその子を引き取った。
アイちゃんが物心つく前に母親が懲罰小屋に行ってしまったから、ハッキリとした名前は分からなくて、愛称の"ユーちゃん"と呼ばれてた。

ユーちゃんはお姉ちゃんがいなくなり、私のようなおばさんが急に現れて、最初はずっと泣いていたけれど、3ヶ月もする頃には生活に慣れてきた。


だけどきっと、もうそろそろアイちゃんが耐えきれず死んでしまうだろう。

そうなれば、この子は………




「ユーちゃん、少しお出掛けしてくるわね」

「りんごたべたい!」

「はいはい、買ってくるわ。いい子で待っててね」




私は森へと急いだ。

可愛くなってしまったユーちゃんを、守るために、アイちゃんがどうなっているのか確認がしたかった。





「あーースッキリした」

「おっまえアレはひでぇって」

「しょうがねぇだろ?穴はまだ小せぇから入んねぇし、殴るしか役立たねぇんだ。」






なんて酷い会話……

ちょうど懲罰小屋から出てきた男二人は、血塗れの手を服で拭いながら町の方へ歩いていった。

ちょうどいいわ…

皆長が怖くて小屋には近づかないから、小屋には鍵がかかっていない。
罪人は壁掛けの手錠をしてるから動けないし。


私は男たちが去ったのを見送ったあとに小屋へ入って、





恐怖した。

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