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空閑遊真を幸せにする



リクエスト:診断メーカー(https://shindanmaker.com/474708)
※いろいろねつ造してます。



この世界に来たのは親父を蘇らせるためだった。けれど、それが叶わないことは、とっくの昔にわかっていた。目的を失ったおれはオサムたちを手伝うことを決め、様々な苦難の末にチカのお兄さんや友達を助けることができた。けれど、その過程で失ったものは大きかった。レプリカと会うことはできなかった。達成感より前に喪失感が押し寄せる。目標を失って一人になったおれは、生きる理由をなくしていた。

「それじゃあね、遊真。今日はつきあってくれてありがとう」
「なんのこれしき。また何かあったらいってくれ」

なまえを駅まで送り、手を振り告げる別れ。彼女は恐らくおれの心境を見抜いていた。休みの日に、あれこれ理由をつけては呼び出して、いろいろな場所を連れまわすのは、少しでも俺を楽しませようとしてくれているのだろう。

一人になるとすぐ、悲しみや寂しさでないまぜになった感情が、台風みたいに吹き荒れる。「また」なんて無責任な言葉を選んだ軽率さを悔やむと同時に、彼女がおれのようなサイドエフェクトを持たなかったことに感謝した。複雑に絡み合った感情は「嘘」の一言ではかたづけられない気もするけれど、今、心の内を誰かにのぞかれるのは困る。

彼女の優しさが好きだ。できれば自分のものにしたいぐらいに。だけどおれはネイバーで、しかも既に死んだ体である。想いを告げるには何もかも不十分で、いっそのこと、彼女を知らないころの自分に戻るべきではないかとすら考える。

「ごめん、なまえ」

届かないとわかっていて、謝罪を口にするのはずるいだろうか。恋しく思う人がいるのに、この世界を捨てようとするのは臆病だろうか。

『それを決めるのは私ではない。ユーマ自身だ』

耳をふさいでも、あいつの言葉をさえぎることはできない。一つ、また一つと後悔の残る選択が増えたけれど、誰かのせいにすることすら赦されない。

うつむき、自分の足元を見下ろしながら歩いていると、しばらくして背後に足音を聞いた。もしかしたら、なんて予感を抱いたけれど、振り返って確認することはできなかった。彼女の姿を見て、安心するのも嫌だ。彼女じゃなくて、寂しい気持ちになるのも嫌だ。気づかないふりをして歩き続けようとしたのに「遊真!」と肩を捕まれ引き止められた。先ほど別れたばかりのなまえが、荒れた呼吸のまま俺を見つめている。「これ、あげるの忘れてた!」と渡された小さな紙袋を促されるままに開くと、中から出てきたのは不格好なフェルト生地でできた、黒い塊のキーホルダーだった。

「最近遊真、元気ないでしょ。その、遠征先で結局……」

彼女が言いよどんだ。レプリカに会えなかったことを言おうとして、言葉を選びあぐねているのだとすぐにわかった。

「でも、私やっぱり、遊真には笑っててほしくて。遊真の周りには、レプリカが残してくれたものを引き継ごうとしてる人がたくさんいるんだよって、知ってほしくて。不器用だけど、頑張って作ったからあげる!私オリジナルレプリカ先生キーホルダー!」

どうだ、と言わんばかりに彼女が胸を張った。体はぼこぼこだし、糸でできた目はギザギザだし、レプリカには似ても似つかなかった。けれど、触り心地は柔らかく、温かかった。お礼を言わなきゃいけないのに、声が出ない。喉の奥に何かがつっかえて、鼻がつんとする。

「呼び止めてごめんね。それじゃ、今度こそまたね」

照れくさくなったのか、早急に身をひるがえして立ち去ろうとした。彼女の名前を呼ぶと、今度はきちんと声になった。振り返り、おれを見つめる双眸が瞬く。その瞳がおれの嘘を見抜くことはないけれど、おれの瞳は彼女の言葉に偽りがないことを知ることができる。それが嫌になることもあったけれど、今はその、まっすぐに向けられた心が、優しさが、何より嬉しかった。キーホルダーを握りつぶしそうになっていた手から、意図的に力を抜いた。適切な言葉は、きちんとわかっていた。

「……ありがとう」

花ひらくように笑う彼女がいる。それだけでこの世界にいる理由は十分だ。



160724

リクエストされたお題は、『好きになってしまったこと。嘘をつくこと。別れを教えないこと。理由は教えずに「ごめん」とだけ謝る』空閑遊真を幸せにする。でした。