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十四松に笑ってほしい



※「恋する十四松」の後

十四松が失恋したと聞いた時は信じられなかった。幼い時からの付き合いだけど、彼は色恋に興味があるとは思えなかった。だから私は“いい友人”という立場に収まることで満足していたし、勝手な安心をしていた。「いつか彼に想いを伝えるとしても、今じゃなくていいや」と。
松野家に行くと十四松がテレビの前に体育座りをしていた。私が来たことにも気づかないで、ぼんやりとテレビを眺めつづける彼は抜け殻のようだった。「十四松」と三回ほど声をかけてようやく振り返る。いつもならすっくと立ち上がって「公園いく!?」と叫ぶのに、力なく私の名前を呼んだだけだった。
「聞いたよ。トド松から」
「何を?」
あなたの失恋を、と続けるのははばかられて黙っていると、彼は察したのかまたテレビに向き直って、膝の上に顎を乗せた。「あの子はね、ぼくの全部に笑ってくれたんだ。あの子の笑顔をみるとね、すごく胸が温かくなったんだよ」と語った。
途端に押し寄せた後悔は数えきれない。何故ずっと十四松が誰にも好意を抱かないと思っていたんだろう。どうして彼の寒いギャグを、兄弟と一緒になって無視していたのだろう。一つ一つ反応してあげればよかった。笑えば良かった。十四松といると楽しいと、口にしたら何か変わっていたかもしれないのに。
「十四松、見て」
重たい動作で首をこちらへ向けた十四松に、渾身の変顔をした。一松と見間違うほど重かった瞼が、途端に丸くなる。
「どうしたの!?そんなこと今まで一度も……」
「多分、十四松と同じ気持ちだからかなぁ」
好きな人の笑顔が見たい。それだけなのに、こんなにうまくいかない。

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