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苗木くんと満員電車



がたんごとん、穏やかなリズム。でもたまに大きく揺れる。その度、正面にいる苗木くんは踏ん張って、私に尋ねる。
「大丈夫?」
「うん」
混んでいる電車の中だから、声はひそめて。会話はそこで終わって、気まずさから下を見た。
背中は扉と座席の角に預けているので、私は苗木くんほどバランス力を求められない。顔の横、扉におかれた苗木くんの左手が、より良い場所を求めてもぞもぞ動くたび、妙な緊張感につつまれる。
不意に、苗木くんの後ろの女子高生が、足元のかばんの位置を確かめるように身を屈めた。押し出されて私との距離を詰める彼。口を丸く開いたけど、すんでのところで声を引っ込めたようだった。腰と腰が触れ、体がこわばる。
「ごめん」
首を何度も横に振り、気にしていないことを必死に伝えようとする。でも、かえって意識しているようで、耳が熱くなった。
混雑しているのだから、体が密着するのは仕方がないことなのに、苗木くんと触れあうこの状況がたまらなく恥ずかしい。
苗木くんもそわそわと視線をさまよわせ、私を見なくてすむように、路線図や広告に没頭しているふりをする。互いの緊張が伝わりあって、首筋あたりに汗が浮かび上がった。
『次は××。××……』
単調なアナウンスが電車の行く手を告げる。開く扉は私たちがいる方と反対側らしい。恐らく、さらに人が乗り込んでくるだろう。いつもだったらげんなりするのに、今はドキドキした。
あまり身長が高くない苗木くんの顔は、すぐ目の前にある。熱を持っているだろう頬に触れたい衝動を抑え、彼の肩にかかった鞄の隅を、人差し指と親指でつまんだ。

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