一撃男 | ナノ


▼ 誰かの気持ちの伝え方と表し方

ちょうど洗濯物を畳み終えて、バイト先も休みな本日はどこか
遠出をしようかなんて考えていた最中に、ドアからノック音がした

「はいはい」

「よお、少し時間あるか?」

「え、あー用件にもよるけど」

「それ時間あるってことでいいんだよな」

「…茶ぐらいなら出すよ」

おどおどした上の階の住民サイタマさんは、少しおどおどしてるように見えて
いつものヒーロースーツって格好ではなくて、普通の格好…普通の部屋着の格好にみえます、というか部屋着なのでしょう

そんな唯一無二の私のご近所様をぞんざいに扱うわけにいもいかず、
お茶ぐらいなら飲んで帰ってもらう程度の相手をする余裕はまだうちにはあり
サイタマさんを家にあげた

「事情は事情だが、ヒーローやっている分、俺は悔しいがここで逃げるわけにもいかずおまえに協力を求めることにした訳だ」

「なんてしょーもない理由で巻き込んでくれてるんですか」

「まだ、夜じゃねーしたのむ!」

サイタマさんは、借りてきたDVDのパッケージと中身が一致しないことが起因でした。つまり、ひとりで中身を見るのは怖いとのこと
気づいた頃に慌ててビデオ屋さんに戻ったものの急に飼い犬エリーの出産が始まり閉店していたらしく、そして、しぶしぶ私の家を訪ねてきたわけですが

「茶を飲みほして、帰ってください」

「おまっ見捨てんのか!」

「当たり前です、ひとりで見てください」

「ドライ女!最近、付き合いわりーぞ」

「バイトしてて疲れているんです、癒しを求めにいきたいんです」

「なら部屋でいーだろーが」

「サイタマさんは癒しじゃないんで帰ってください」

「ひでぇ!」

しばらく言い合いしてるものの帰る気配が全くない
これは、困りました
いつもなら、「あーもう、わかったよ…ちぇ」ぐらいで帰るのに、本日はねばる

他の人に頼めばいいじゃ…あ、ここ私とサイタマさんしか住んでませんでした

「ジェノスくんはどうしたんですか」

「あいつ、定期メンテナンス中らしい」

「愛弟子なら電話すればかけつけてくれます」

「…やめてくれ」


渋るサイタマさんの顔を見て、私も言い合いに疲れがでたのか折れることにした
白旗をあげれば、彼は喜んで勝手に私のパソコンの電源を入れた

「今回だけですからね、終わったら帰ってください」

「わかってるって、これで再生すればオーケーだな」

「あ…そこのボタンですよ」

始まって一時間ぐらい経ったのだろうか、なんだか物語に飽きてきた
内容は典型的なホラーサスペンスものだった、彼がこわがる要素が見つかんない
というより、普通に見てるし…映画に飽きてきたので彼を観察してたら

「…そういえば、サイタマさん加齢臭しませんね」

「七面鳥の蒸し焼き娘、おまえ喧嘩売ってんの?」

「あ、聞いてたんですか?」

「ばっちりな、この距離だから聞きたくなくても聞こえる」

「いやー映画の方あきちゃいまして」

「…そうか」


そういうとサイタマさんは再び目線を映画に戻した
じっと映画に集中しているのか、まさか意外とサイタマさん的には楽しいのか、…もしやスリリングな内容に目覚めたのでしょうか

私は、サイタマさんにお茶を入れなおし再び彼の真横に座り込んだ
映画は二時間ぐらいで終わり、私達は解放された

実にしょーもない映画でした、パッケージに『かの大監督も大絶賛!』とか
絶対嘘ですよね、と今なら呟けます

「しっかし、ラストまで見れてすっきりした」

「そうですね、あんなオチって…よくDVD化しましたね」

「夢オチって考えると俺これひとりでも見れたな、うん」

「もう帰ってください、まじで二度と持ち込まないでください」

「おまえ、そんなに嫌だったのか」

「嫌でした、もう夕食の準備時間ですからね」

これで私の休日が潰れちゃうなんて、若干ショックです
買い物は済んでいるのでいいのですが、隣市の新しくできた駅前のパンケーキ屋さん行ってみたかったなぁなどとしみじみと思う

「俺は、楽しかった」

「その映画ドツボでしたか、ホント趣味悪いですね」

「ホントってなんだよ、そうじゃねーよ」

サイタマさんがあぐらをかいて、私の方をじっと見てきた
え、なんでしょうこの視線は…空気が読めません

「最近、ふたりっきりあんまなかったろ」

「そうでしたっけ」

「…なんだかんだでジェノスが来てから三人でいる方が多いし、買い物もジェノスとの方が多いだろ」

「買い出しだりぃといって押し付けてるのサイタマさんですよね」

「うっせぇ…んでまぁ、たまには昔みたいにふたりでのんびりしてぇなぁって」

「加齢臭しないのにおじさんくさいです」

「七面鳥の蒸し焼き娘黙って少し空気読んでくれ」

黙れと言われました、サイタマさんはぽつりぽつりと話し
私なりに彼の意見をまとめてみた結果、つまり彼はDVDを口実にふたりで休日を過ごしたかったという事ですね
彼は彼でご近所付き合いを大切にしていたのかもしれませんね

「今度からは事前に言って下さい、私にも予定がありますので」

「お、おう…ってどこいくんだ、もう出るから茶はもういらない」

「人の休日潰しておいて…今夜は食べて行ってください」

「まじか!飯くれるのか!」

「チキンカレー…どうせ作り過ぎちゃうだろうし、調理手伝ってください」

「ありがとな、じゃ俺お米研ぐわ」

昔は、彼がもう少し今みたいに活躍してなかった頃は
こうして家にお邪魔されて、一緒にごはん作って、とくに最初は…

「きゃー!サイタマさん、それジュニパーベリーです!」

「なにその調味料!じゃ、こっちか?」

「わー!サイタマさん、そっちはマジョラム!」

「聞いたことねぇよそれ!もう名札シール貼れよ!」

私の調味料入れの瓶で、どれがどれなのかわからないサイタマさんは間違い続け
今はこうして反省をいかし、それぞれの調味料瓶に名札シールを貼られている

趣味ヒーローやってる彼にとって、毎日休日みたいなものだけれど
そんなわけで、こうしてサイタマさんとふたりなのは久しくて少し懐かしく楽しい休日もいいと宥められてしまった

「あとは待つだけなので、お笑いみましょう!」

「いいな、この時間帯つったら…」

チキンカレーの香ばしい香りが部屋に広がり、彼とテレビの前で共に笑い合う
また、今度彼がひとりの時にお邪魔しに行こう

ジェノスくんがきてから、彼は忙しくなってお邪魔を控えてたけれど
今度から時間作って、バイト帰りにでもお邪魔してこよう

お笑いチャンネルがCMに入るや否や、キッチンタイマーが鳴り出す
テレビ見ながら他愛もない話をして、夕食をふたりで食べよう

やっぱり、楽だけれどひとりよりふたりのご飯は楽しいと思えた




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