決意した瞬間、
教育相談みたいだ、とふと思った。
とりあえず座れと言われて席に座り、正面には先生が座る。こんな状況じゃなかったら、きっともっと嬉しかったはずなのに。なのに。
「友達、と...ケンカ、みたいなのしてしまって」
「ケンカ」
「別に、そんな激しく言い合ったわけではなくて、」
ただ静かに、緩やかに、追い詰められた。
顔を上げることが出来なくてひたすらにスカートを見つめる。握りしめていたそこはくしゃりとしわになってしまっていて、帰ったら伸ばさないとなんて考えていた。
誰かにこの気持ちがバレるなんて、思っていなかった。上手じゃなくてもちゃんと隠せていると思っていた。だけど実際そんな事なくて、あんなことを言われて今更隠し通せる自信なんてなくなって、それなのに目の前にいるのは先生で。先生にバレる事が、一番怖い。
嘘をつくのも隠すのも苦手だから、だからバレてしまったのかもしれない。
でもね、好きな人の前で冷静になれるほど人間ってうまく出来ていないと思う。好きってそんな簡単なことじゃないと思う。
「秘密にしてたこと、バレたんです。それで、遠まわしに知ってる、って言われて...そうやって、伝えられたことに、私...傷付いたんです」
ねぇ、勝手だって分かってる。
高杉くんはやめろって言いたかったのかもしれない、知ってるよって伝えたかったのかもしれない。嘘をついて隠そうとした私が傷付くのはお門違いかもしれないけど、だけど。
「いつも、ちゃんと私に言ってくれるのに...」
あんな風に追い詰められるんだったら、ちゃんと正面から言って欲しかった。否定して欲しかった。そしたら私、もっとちゃんと、出来たのかもしれない。
「あの、まとまってないんですけど...」
「...お前さ、」
遠まわしに言ったのは、私自身の口で言わせたかったから?逃げ道をくれていたから?
全然分からない。分からない、けど。
「それ、寂しかったんだろ」
うん、寂しかった。
全部見透かしたような言葉も、目も、怖かった。1番柔らかいところを乱暴に暴かれたのも辛かった。だけど、本心を隠された。それって、すごく寂しい、寂しいんだよ。寂しかったよ。
「1番肝心な事、言ってもらえないって、寂しいよな。でも、」
一つ一つ区切って話す先生の声は優しい。
だけどふと、諭すような口調に変わる。そこで初めて私は顔を上げた、優しい赤色が私を写していてそのまま吸い込まれるように静止する。
「そいつにも、隠したいことあったのかもしれねぇよ?」
「...?」
「言いたかった事、そいつにもあったのかもしれねぇし」
隠したいこと、あったのかな。
言いたいこと、あったのかな。
「名字に対してキツイ言い方しねぇとうまく隠せなかったのかもな」
いつも真っ直ぐな人が、今日も真っ直ぐでいるとは限らない。いつも正直な人が、今日も正直だとは限らない。
色んなことを隠していないと、ダメなことがあるって、私だって知ってる。高杉くんもそうなの?見落としていることあるのかな。
私にはまだ分からないことだらけだけど。
「まぁ、ちゃんと話してみ」
この一言がいつだって私に力をくれる。
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