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突きつけられた瞬間、


カラカラに乾いた喉に唾液が滑り込んでいく。
そんなに間はないはずなのに、その一瞬が永遠のように感じられて私は必死に言葉を紡ぐ。

「...ほしいの?」
「あぁ」
「お腹すいてるの?」
「これから部活するのに困るぐらいにはな」
「なら昼のあまりのおにぎりあげるよ」

逸らしてはいけない。
その目を逸らしたら、気づかれてしまう。
高杉くんは、彼は、見ようとしている、私の、心の奥底に隠しているものを。暴こうとしている。必死に何の気なしに適当な言葉を連ねる、おにぎりがあるのは本当だけど。
高杉くんが暴こうとしている気持ちは私にとってはとてつもなく後ろめたいもので、自分でも分かっているぐらい正しくはないもので。だから、隠すことに必死になっている。
だけど、

「...んなに大事か」

吐き捨てるように言われたその言葉の先にあるのがこの、綺麗に固まっている飴だって分かっている。分かって、しまっている。
だから、何でもないふりをするのも、嘘をつくのも苦しい。この気持ちを否定されて、もっと苦しい思いをするのは私だってことも分かってる。

「あいつから貰ったもんは、お前にとって嘘つくほど大事なんだな」

だから、そこまで知ってるなら、見透かしてしまっているのから、全部知らないふりしてほしかった。遠まわしに言っているその言葉は確実に私の心の柔らかい所にちくりちくりと跡を残していく。

「...違うよ、私がただ、この飴好きなだけだから」

それでも苦し紛れの嘘を続けるけど、遂に彼から外してしまった視線がきっと彼の中の何かに決定打を打った。
それなら、いっそ、言ってほしかった。
これは間違ってるって、言ってほしかった。

「...もういい」

それだけ言うと高杉くんは何も取らずに出ていってしまった。タオル、取りに来たんじゃなかったの。まだ見つかってないでしょ。
私は、何も、見つけられないまま。
そもそも、見つけられるなんてものじゃなかったのかもしれないけど。正しい事なんてこれを抱えている以上、何もないのかもしれないけど、

「忘れ物ーって、お前なに、まだいたの?」

その存在が、

「もう遅いんだから帰宅部はもう帰れよー」

その声が、優しい目が、

「おーおー運動部はよくやるなー、ドMかよ」

私はとても大好きで。
正しくなくたっていいって思ってしまう。私に出来ることは、この気持ちを守ることしかないんだから。
先生はカーテンから離れると膝に手をついて私の顔を覗き込む。

「さてと、...お前は何かあったの?」
「...なにも」
「うそつけ、そんなに寂しそうな顔してるくせによ」
「...してません」
「はいはい、説得力ねーから」
「......」
「んな顔した生徒ほっといたらPTAに訴えられるわ」

だから、何あったか話してみ。

私は、間違っていますか。
先生、ねぇ、先生。
どうしても、好きでいたらダメなんですか。

なんてどうしても、言えるはずなんてなくて、私はまた少しだけ嘘をついた。


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