透かされた瞬間、
「ほい」
「え、...え??」
手のひらに転がる小さな飴。
その上に一つ二つと増えて落ちてくるそれは宝石よりもきらきらしているように見え、最後の一つがてっぺんに乗っかった時、その山はどんな宝物よりも素敵なものに見えた。
大袈裟かもしれない。
だけど、私にはそう見えた。
「1ヶ月頑張ったご褒美ってやつだな」
「あ、え」
私と先生との古文の勉強が始まったのは1ヶ月前だった。最初は〜たり、とか〜けりとかごちゃごちゃしていた文法が自分の中で固まっていき何とか読めるまで成長したのは最近の事。授業でやった小テストで初めて満点をとって、その御褒美だという事なんだろうか。コロリと落ちてくる飴を机の上に置いてありがとうございます、と小さく呟く。
「まぁ今日は居残りはなしで飴で食って帰っとけ」
「はい」
「んじゃまた明日な」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でて先生は教室から出ていく。ペタペタという特徴的な足音が聞こえなくなってから机に突っ伏して顔を腕の中に埋める。
さっき、指が。
手のひらに、頭に。
ぐるぐる回るさっきの映像、最後に残るのはいつだって優しく細められたあの赤い目で。次は、なんて考えてしまう。...まぁ、居残り勉強なんだけども。にやける顔を1人抑えていたらガラリとドアが開いて誰かが入ってきた。弾かれるように顔を上げるとそこに立っていたのは剣道着に身を包んだ高杉くんで、
「...へ?」
「...んだよ」
思わずガン見してしまった。
彼の剣道着を見るのは随分久しぶりの事で、記憶の中よりも大人びた高杉くんの部活姿はなんと言うかかなり様になっていた。これは女子もきゃーきゃー言うだろう、剣道部は会いに行けるアイドルの集いなんてよく言ったものだ。
「ううん、部活の格好してるの久しぶりに見たから」
「見惚れたか?」
「うん」
「は?」
「え?」
素直に頷いたら何故か睨まれて肩が固くなる。
やがて高杉くんは怒ってるというより呆れた顔になると片手で顔を覆ってしまった。
「...高杉くん?」
「お前そういうのは、...言うな」
「なんで?」
「...なんでもなにも、ああ、もういい」
半ば投げやりにそう言うと高杉くんは自分の机の横にかかっている小さなカバンを手に取ろうとする、が私の机の上に転がっている飴の山を見てその手を止めた。
「それ、」
「...飴、だけど」
「......」
まって、なんで黙るの。
私だって飴ぐらい食べるけど、でもこれは。
「それ」
「...うん」
高杉くんの綺麗な目が私をじっと見つめる。
何でも透かしてしまいそうな視線が心地悪くて目をそらしたくなるけど、ここでそらしたら何かを肯定してしまう気がして目を合わせる。
「お前のか?」
「うん、もらったの」
「くれって」
「......」
「言ったらどうする?」
「...え」
恐れていたのは、心を透かされること。
怖かったのは、言葉の裏を読まれること。
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