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褒められた瞬間、


心臓の音が聞こえそう。
なんて少女漫画の世界だけの事だと思ってた。
でも、そんな事はなくて聞こえないで聞こえないでと願う。ふわりと、香るタバコの匂いも陽の光を浴びて光ってる髪も、私の心臓をうるさくする一つで。

「先生?」
「おーどうしたこんな時間に」
「忘れ物しました」
「お前成績いいくせに抜けてるよな、何忘れたんだよ」
「……古文の教科書とノートです」
「まさかの1式?しかも、俺の授業?」
「すいませんついうっかり」
「わざとじゃない方が人を傷つける事があるんだって分かったわ」

あきれたようにため息をつく先生のネクタイはなぜだか外されていていつもより胸元のボタンが緩い。ふと視線を教壇にやればおざなりに捨てられたネクタイがポツンとあった。
放課後は、こんな感じで教室にいるんだろうか。今日は採点してるみたいだけど明日は何をしているんだろうか。

先生、ねえ先生。
知らない事知りたい。
私が知らない先生を知りたい。

「……おしえて」
「は?」
「あ」

つい出た言葉に慌てて口をふさぐ。
先生はぽかんとこっちを見ていてペンも止まっていた、私は、一体、何を。

「……あーお前古文苦手だもんな」
「へ?」
「いやいやわかるよ?一つぐらい苦手な教科あっても大丈夫だよ、お前このクラスじゃぶっちぎって頭良いし」
「あ、あの、」
「古文分かんなけりゃいつでも来い、先生直々に教えてやっからよ」
「い、いいん、ですか」
「おー。ただその時は飴とか持ってこいよ、タダとは言わせねぇからな」
「……ふふ、分かりました」

飴、という代金がとても先生らしくて笑ってしまうとふと先生の手が近付いてきた。思わず目を瞑るとするりと親指の腹で目元を撫でられた。え、何、待って。頬に触れてる指が温かくて、胸がきゅうって痛くなる。

「あの……?」
「お前の事だから帰って勉強ーとか思ってるだろうけど、今日はゆっくり休め」
「……??」
「隈つくってる奴にさらに勉強教えるようなドS教師じゃねぇんでね」

もう1度目の下を撫でられて、ぽんと頭を撫でられる。
そんな簡単に、触れないで。
ねぇ、お願いだから。

「頑張ってるの、分かってるからよ」

ああもう、うるさいよ心臓。


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