×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

ひょんな事から知り合った男の人は、少し強面のお兄さん。多分、多分年上。
見知らぬ男に襲われていたところを助けてくれて、最初は嫌々だったけどたまに茶屋に来ては必ず一品は頼んでくれるから悪い人ではないと思う。綺麗な柄の着物を着流しして煙管をふかしている姿は何というか物凄く目に毒だ。
多分こういうのを妖艶、と言うのだろう。

「おい」
「は、はい!」
「なに人の顔をジロジロ見てやがる」
「そ、そんなに見てましたか?」
「落ち着かねぇからやめろ」
「すみません」
「……茶ァよこせ」
「はい!」

正直言えばまだ怖いけど、この店にいる時のこの人は穏やかだ。
でも、たまに見せる瞳はひどく悲しそうに揺れている。よく見ていないと見逃してしまいそうなほどに微かな変化、その事を指摘した事はないけれど、その瞳をする時のこの人はとても小さく見えた。それに気づかないふりして私はいつも通り働くだけ。

「お茶、お持ちしました」
「……」

無言で湯飲みをとる指は男の人とは思えないほど綺麗で細くて、でもやっぱり私のそれよりは長くて太い。この人の仕草の一つ一つに目を奪われそうで、少し隙間を開けて隣に座ってみたけどお咎めは無しだった。
そのまま道行く人を見ていたら、「何見てんだ」と声をかけられる。

「家族です」
「…………」
「今日も、皆幸せそうですね」
「…………お前は?」
「私ですか?…………私の世界はこの茶屋の敷地内です、幸せが何なのか…よく分からないですね」

でも、と私は続ける。

「たとえ私が幸せじゃなくても、この敷地外の人達が幸せなら多数決できっと世界は幸せなんですよ」
「はっ……」

あ、鼻で笑った。
この人の笑ってるところ初めて見た。
嘲笑うって、嘲笑うって酷くないですか……。
その人はおかしそうに肩を揺らして湯飲みを置く、そしてその細い指で煙管を口元に持っていった。

「てめぇの幸せはどうでも良いってか」
「この場所から見る"幸せ"が、私はとても好きなんです」

そう言えばその人は「バカな奴だ」と悪口を吐き捨てて、いつも通り去っていった。
気づいてないだろうけれど私の"幸せ"の景色の中には、あなたもいるんですよ。……なんて言えもしないけれど。

*前 次#