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目が覚めると高杉さんは何も言わずに立ち去ってしまった。一言もなかったけど、私が目が覚めるまでちゃんと傍にいてくれたのが嬉しい。着物の袖を持っていたから立ち去ろうにも立ち去れなかっただろうけど。
少し寝たらスッキリしていて、まだ鼻はグズグズするけど体はちゃんと軽くなっていた。茶屋に来てくれたお客様も帰り、体を伸ばしていた時だ、

「おい」
「いらっしゃ、……」

ぶっきらぼうな声に体が固まる。振り向いた先に立っていたのは黒い制服に身を包んだあの警察の人、真選組副長土方十四郎。私は言いかけた言葉を飲み込んで顔を強ばらせる。高杉さんとは違う鋭い相貌、でも怯むことなくちゃんと見つめ返した。

「いらっしゃいませ」
「ああ」
「ご注文は、」
「最近この店に妙な奴が出入りしていると聞いた」
「…………」
「どうなんだ」
「妙な人なんて出入りしてませんあえて言うなら今私の目の前にいる人が店一番の妙な人です」
「あぁ!?良い度胸だな警察に逆らったらどうなるか教えてやろうかこの野郎…!」

凄んだって怖くない。
目の前で大事な人を奪われた時より怖いことなんて、何もない。
それにもしその妙な人が高杉さんの事を指しているとしたら、素直に言う訳にはいかない。だから話題をずらすために一言。

「…………ヤクザ」
「んだとコルァ!!」
「はいはい店先でケンカすんな」

今にも掴みかかりそうな土方さんの襟をガッシリ掴んで止めたのは死んだ魚のような瞳をした銀髪の男の人。その人は土方さんをポイッと投げると「お前もいくらあいつがマヨまみれだからっていきなりケンカ腰はよくねーって」と私の頭をわしゃわしゃ撫でる。

「誰がマヨまみれだ!誰がいつそんな幸せな状況だコルァ!!」
「どんな状況が幸せ!?てめぇは365日24時間体制でマヨネーズすすってろバーカ!!」
「……店先でケンカするのはやめてください」
「…………もういい、また来る」
「2度と来んなバカ」

銀さんは最後に小さく悪態をつくと茶屋の前に置いてある長椅子にドサッと座った。助けて、くれたんだよね多分。

「……ありがとうございます」
「お前もさ、あいつがムカつくのはメチャメチャ分かるけどそこまで嫌ってやる事ねーじゃん」
「…………」
「人を嫌っても意味なんてねぇぞ」

ポンポン頭を撫でる銀さんからはあり得ないぐらい甘い匂いがした、それなのにまだ食べるつもりなのかなこの人。お礼もかねていつものおしるこにホイップクリームを追加してあげよう、お餅も増量したら喜ぶかな。
そんな事を考えてたらふわ、と風が吹いて髪が流れて長めに伸びたそれは銀さんの鼻を擽ってしまったらしく銀さんは派手にくしゃみをした。

「ぶわっくしょい!」
「あ、すみません……」
「…いや、大丈夫だけど。……お前煙草とか吸った?いつからそんな悪い子になったの?」
「…………へ?」
「髪には匂い付きやすいんだよ。それとも変な男と突き合ってんのか?」
「銀さん字違います」
「お前ふわふわしてんだから男ぐらいしっかりした奴捕まえないとマダオじゃダメだろ」
「あー……じゃあ銀さんはダメですか」
「え、なに銀さん狙われてた?いやオッケー全然オッケー心も玄関も開いてる」
「嘘です」

冗談まぎれにそう言えば「お前立派な悪女だよ悪女」と笑う。
私はおしるこを持って来ようと席を立って店の中へと入り、ふと着物の袖を鼻に持ってきてみた。……確かに匂いがする、でもこれはさっき来た土方さんが吸っている煙草の匂いではない。だとしたら、

「高杉さんの、匂い…かな」

近くにいたからついちゃったのかな、あの人私がいるのに吸ってたんだ…別に良いけど。
何か、マーキングされたみたいでちょっと恥ずかしかった。

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