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「晋助様ァ〜」
「どうしましたまた子さん」
「あ、先輩、晋助様見てないっすか?」
「いえ見ていませんが」
「せっかくうまい酒をもらったからお裾分けしようと思ったんすけど」
「それは残念ですね、どうでしょうここは先輩である私に、」
「晋助様ァ〜」
「無視ですか」

船内を歩き回る2人の視界に入らぬように今まさに探されている男、高杉晋助はそっと船を抜け出した。人の少なくなった江戸の町を歩きながら月を見上げる、いつもは爛々と輝いている月だが今は薄く霞がかっておりまるで春の月のようだった。
高杉はその月明かりに誘われるように道を歩き、
そうして辿り着いたのはあの茶屋。昼間のような活気もなく、電気も消えているそこはやけに寂しく見えた。

「…………」

ふと目を上げると開けっぱなしの窓が目に入る。おそらくなまえの自室だろう。……上れない高さではない、そう思い軽く飛んで屋根に手をかけ体を持ち上げて体を安定させ中を見れば鼻をすすりながら布団にくるまっているバカな奴がいた。

「…………おい」
「……………え」
「風邪気味なのに窓開けて何してんだ」
「いやいやいや、人の家の屋根で何してるんですか」

年頃の女にしては簡素な部屋でところどころに散りばめられているぬいぐるみや髪止めが可哀想に見えてくる。寝巻きを見られるのが恥ずかしいのか布団を引き上げて俺を睨むそいつの顔は赤くて、やっぱり何も分かっていないと再認識しながら部屋に入って布団の近くで膝をつく。

「た、高杉さん、土足です」
「知るかよ」
「横暴すぎますよ…!というか何でここに、」
「このままだと朝まで酒飲まされるとこだったんだよ」
「何の話……」

まだ何か言おうとするそいつの後頭部を掴んで自分の肩へと押し付けた。何やら苦しそうな声が聞こえたが気にせず、そのままの状態でサラリと風に揺れる亜麻色の髪に指を通す。
細くて柔らかいその手触りは、昔に触れたそれとよく似ていた。思考が止まっているのか完全に固まっているのを良いことに、俺はまた指を通す。

「っ……??」
「…………____」
「…………?」
「__い、」
「……」
「先生…」
「た、かすぎ…さん」

微かな声に、思考が戻った。

何してるんだ。
あの人が、先生が、俺の両の腕の中に収まる訳がない。今ここに、いるわけがない。

ここにいるのは、へらへらとバカな顔して笑って、その癖心の底から何かを憎んで嫌って生きている、裏表一体の…………ただのガキだ。

「なまえ」
「…………え、」
「てめぇの名前だろ」
「そ、うですけど…今まで呼んでくれなかったじゃないですか」
「いつ呼ぼうが俺の自由だろ」
「…………」
「なまえ」
「………………は、い」
「寝ろ」

その一言で大人しくその体勢のまま目を閉じたらしく、しばらくするとだんだん重みを増してきて寝息まで聞こえてきた。……本当に無防備なバカ女だ。
なまえを横に倒してその頭の下に腕を差し込む、能天気な顔をして寝ているそいつの鼻をしばらくつまんでいたがやがてゆるやかな眠気が襲ってきて、素直に目を閉じた。

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