ひみつとのろいとこどもたち


空は、高く青く…
海は、緩やかにうねり、
風が草葉を揺らす。

日は、全てを眩しい陽光で包み…
世界はきらきら光っていた。


すすり上げるような泣き声は、どんなに口を噛みしめても、喉から鼻へ抜けていく。
ぼろぼろと落ちていく水。目をこすって、それを止めるのが、無性に悔しくて。流れるままに、放っておいた。
背中に感じるのは、もたれかかった木の幹の、背中が痛くなりそうにかたい、ごつごつした感触。


空は晴れていた。
海が、青緑に輝く。
太陽は、見上げる首が痛いくらい、高い所に登っていた。
良い天気の、きれいな日……
輝く世界に、うつむく彼は気が付かない。
帽子の影から生まてこぼれる、小さなしずく。それは重力に従い、まっすぐ芝の上へと落ちてゆく。
いつもとおなじ海の音は、とてもとても静かだった。
いつもとおなじ、群れるカモメのにぎやかな声が聞こえた。

…ひとつだけ違うのは、だれかが上げる、大きな大きな泣き声。


(…ぼくのこえじゃない……)


音も立てずに落ちていき、緑の草の上で滑る、きらきらした水滴。それを眺めながら…彼は、ぼうっと思うのだった。


「うわああああん…」


うるさいくらいに聞こえる、だれかの声。
はじめ…声の主の、嗚咽を堪えるようにささやかれていた呼びかけは、ついにはこんな大音量となってしまった。
…彼は、ひたすら下を向く。

辺りには、背の低い雑草の、小さな小さな原っぱが広がっていた。
一つだけある、少し大きな木の根元に、彼はじっと座っている。
彼の後ろ…幹を挟んだ後方に、小さな少女が立っていた。

彼はうつむいて、彼女を見ようとしない。
彼女は木の幹が邪魔で、彼の姿が見られない。

少女が近寄ろうとするたび、彼は来るなと叫ぶ。それと一緒に、土くれやら、ちぎった草きれやらを振りまいて…彼女を留めていた。
二人とも、ずっとずっと泣いている。
彼は静かに泣き、彼女はごうごうと泣いた。

ぼんやりと、彼は自分の小さな手のひらを広げる。
目に見えたのは、肌色の皮膚ではなく、
緑の鱗で覆われ、鋭く厚い鉤爪を生やした、爬虫類の前肢……


(…こんなの、いらないよ……)


魚のうろこのように、これもそぎ落とせてしまえばいいのに…
彼はやっぱり、ぼうっと思う。
泣き疲れた頭は、じわりと熱を持って。寝ぼけたような心地の中、輪郭の緩い感情が、ぐるぐる渦を巻く…
自分の尻から伸びた尾は、時折ぱたぱたと動いた。


(…いらない……)


とかげの尾っぽは切れるのに、どうして自分のこれはなくならないのだろう…
ぼんやりとした心地の中で、彼はやっぱり泣き続けた。

彼はいつだって、ひとりぼっちだった。
緑のうろこも、尾っぽも…とがった歯も、かぎ爪も……いつだって、みんなに嫌われた。
隠していたくても、ふとした拍子に出てきてしまう。
引っ込めようとしたって、いつもなかなかうまくいかない。
そうやって、彼が自分の体と格闘している間に…みんなみんな、彼をヒトとはみなくなる。


《かいぶつ!》
《いなくなれ!》



だから彼はもう、しばらく前に出会ったばかりの、背後の少女の存在に…困惑するしかなかったのだ。













(…こわくなんてないから、仲直りしようだなんて……)






****


EGのサブタイトルは、「かいぶつと、ばけもののおはなし」なんですよ。でも本編が全く進まず、これでは意味がわからないので…こっちでモソモソ解消しようという試み。(本編書けよ)

これが年内最後の更新か…これが…
来年はもっと精進したいと思いますが、ぶっちゃけどうなるか分かりません(おい!)
ドレークさんのもそうだけど、ペルさんのおはなしも書きたいです。はい、wantで終わりそうですが。

今年もこんなサイトにお付き合い下さり、本当にありがとうございました!来年もまた、頑張っていきます!
皆様、良いお年を!
2013.12.31

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