ひみつとのろいとこどもたち


【あてんしょん】

ドレークさんの幼少期のおはなし。捏造だらけ。孤児設定ですごめんなさい。
本編が全然進まないのに、サイドストーリーばかり膨れていく…

全2ページ。始めがシルバーナと出会う前、後が出会って一ヶ月くらい。話が飛び飛びになってたり、ぶっつり切れてる感が拭えないのは、執筆を途中で止めては半年放置、また書き出しては(以下略)を繰り返したから。駄文だし文章下手くそ。





****





少年は、ぼんやりと座っていた。

何を見るでも聞くでもなく…

ただ、座っている。

影が、長く傾く日暮時。海は凪ぎ、風はそよそよとしか吹かない。
僅かに橙色掛かった空が、少年の髪と同じいろだった。

着古され、よれよれになった青いスカーフ。僅かな風で、ゆらゆら揺れる。
小さく丸い頭の上には、生地がほつれた海兵キャップ。腰には、玩具の短剣を提げていた。

海沿いの、堤の上に座る少年。彼はちいさな、ちいさな男の子。
この、マリンフォードの街の、古ぼけた孤児院で暮らしている。
年は、今年で六つくらいになった。

彼の生まれは北の海。
寒さの厳しい極東の、小さく、凍りついた島の中。それは貧しい、寒村の出身だった。
彼の両親は、流行りの病で死んだという。

幼い彼だけが、生き残った。

寒さ厳しく、貧しい島で…
幼い彼は、三日と経たず野垂れ死ぬことが出来ただろう。
誰にも、孤児を引き取る様な余裕は無かった。
それに、彼の存在は、そこで忌み嫌われていた。


ーー彼が、周りとは違ったから。


厳しい気候は、村のみならず、島丸ごとを氷で外から閉ざしてしまう。
食べる糧少なく、着物もままならず、病に罹れば薬など無く。
雪の大地には、多く老若男女の死骸が落ちた。
孤児の生きる道など、何処にもない。

しかし彼は、生きてしまった。
生き延びてしまった。


ーー彼は、周りとは"違った"から…


さわさわ、さわさわ、
海辺の街に、少し風が出て来た。
日の暖かみが薄れ、ひんやりとしたそれはまだ、少年の帽子を吹き飛ばせるほど強くはない。
ぷっつり、真っ直ぐに揃えられた橙の前髪が、ぴらぴらと僅かになびく。
影はぐんと長く、しかし薄まる夕暮れ時。空の色は、薄紫。辺りは、次第に暗闇へと変わっていく。
衰え、海の下で朽ちようとする今日の陽は、弱ってもなお光を放った。

彼は、丸く蒼い眼を、時折ぱちりと瞬くだけ。じっとしていて、動かない…
ただぼんやりと、黄昏時の海のように生ぬるい、懐古の中に沈んでいた。


彼が今よりもっと幼かった、数年前のあの冬、
野に放られ、やっと生きていた、最初で最後の冬、
いよいよ飢え、凍え、死が目前と迫ったあの冬。彼は、偶然通り掛かった海兵の部隊に出会い、保護された。

だからこそ今、この島で暮らしている。
あの後、この島にあるたった一つの孤児院に連れて行かれ、以来ずっとそこにいたのだ。

彼は、自分の二親の事を、もう朧げにしか思い出せない。
父と母の微笑みも、自分が住んでいた粗末な家も、自分が何をして遊び、何が面白かったのかも、
皆、忘れてしまった。

つまり、それだけの時間が経っているのだ。
彼、一人きりの時間ばかりが…

時折思い出されるのは、目を刺すような雪の光と、故郷の海の、深く昏く、冷たい濃紺。彼の瞳と同じ色をした、氷色の空ぐらい。

それと、石つぶての投げられる音。
頭に当たった時の、星が飛ぶような感覚。
触ると大抵血がついたっけ。


ずっとずっと、幼かった頃。
記憶が曖昧なほどに、小さな子供だった頃。
彼は、不思議な木の実を食べた。
不思議な木の実は、彼に不思議な力をくれた。
目の色が変わり、頬が緑の鱗になった。
歯が不気味にぎざぎざとして、トカゲのしっぽが、勝手に生えてきた。
爪が、恐ろしげに伸びて。ねじ曲がり、鋭利に尖った。
声は、甲高い獣の叫びになった。

まるで、怪物みたいに。

不思議な木の実は、彼に不思議な力をくれた。
望んでもいない、怪物へと変じる力を。


ーー彼は、異端児だった。


ぼんやりと、微かな思い出の中を彷徨う。彼は、だから今の生活がとても豊かで、平和で、穏やかなものだと理解できるのだ。

ここでは、地面で寝なくても良い。
ここでは、夜中火を焚かなくても凍え死なない。
ここでは、何日も何日もものを食べないで過ごさなくても良い。
怪我や病気に薬もある。
ここにいる人たちは、彼を見ても石を投げては来ない。
彼が視界に入っても、怯えたような目で、暴言罵倒を浴びせてきたりはしない。
終いには、何人もの人手で、鈍器やら刃物やらを片手に、彼を追ってきたりもしない。

彼は、ここで生きていくことができる。

孤児院の布団は、固くても暖を取れた。食べ物だって、ちゃんと分けてもらえる。

彼を保護した海兵は、彼に自分の帽子を被せ、首に古いスカーフを巻いてくれて、それらを彼へプレゼントした。
マリンフォードへ向かう、軍艦の中。空いた時間で木っ端を削り、短剣も作って遊んでくれた。

その時、彼は久しく、本当に久しく笑った。
貰った帽子をぎゅっと握って、子供らしい笑顔で。
以来、この帽子と、スカーフと、短剣とは、彼の宝物になったのだった。

もう、その人とまた、会う事は無かったけれど。時間が経った今も、彼はずっと、覚えている。
それは、彼の心の中にある、たったひとつの、暖かい松明だった。
いつだって、その思い出が彼に勇気をくれる。

だから彼は、今、一人きりでも平気なのだ。
例え、みんなが彼を遠ざけても。

制御がうまくいかずに、時折表へ出て来てしまう、怪物みたいな姿。
それのせいで、孤児院の子供たちとも、街の子供たちとも、仲良く遊ぶ事が叶わなくても。
友達なんかいなくたって、彼は寂しくなかった。
昔みたいに、暴力を振るわれる訳でもない。
ただ、怯えたような目で、離れた場所から見られるだけ。

唯一優しく接してくれたのは、孤児院のシスターたち。
でも、彼は気付いていた。
彼女たちの目にも、過去見たのと同じ、怯えの色が滲んでいるのに。
それでも、彼は悲しくなんてなかった。

帽子と、スカーフと、木の短剣。
この宝物を持っている限り、彼は無敵のヒーローになれるのだから。


ぱちり。
彼はまた、目を瞬く。
空を仰げば、もう墨色の世界。銀の星々が、ちかりと光った。
遥かな西の空には、微かに残った陽の面影。広い海は、粘度を持った闇の上に、てらてらと照る。
滑る軍艦の灯りが、クラゲのように揺らめいていた。

戻らなきゃ、
ようやく我に返って、一人呟く。
少し、遅くなりすぎたなあと、地面に飛び降りた。
人気のない、島の外れ。足首をくすぐる草地の上を、とぼとぼ歩いて帰路につく。

帰る、という言葉が、彼は少し嫌いだった。
自分の帰る家なんて、どこにも無いのだから。
家、と思えるほど、よそよそしい孤児院には親しみを感じない。まして故郷など、以ての外。
胸の中に巣食う、冷たいなにか。
彼がまだ、名前を知らない、空虚とか、孤独とかいう感情。


ちいさな、ちいさな、あまりに幼い男の子。

無知で、ひとりきりの少年は、つまらなそう頭を掻く。片手に持った玩具の短剣を、ぶんぶんと振り回した。
見えない悪者を想像して、それを切り裂いていく。自分はヒーロー。たったひとりで世界をまもる…

さびしくなんかないさと、少年は声を上げて笑った。勇み足で、草切れを蹴散らし歩く。

その背中の、今に掻き消えそうな儚さ。笑い声の、刺さりそうに切ない声色。自らの抱える矛盾に、彼はついぞ気付かない。
あまりに、幼い、おとこのこ。

港で遊んでいる時覚えた、海兵の行進曲。勇ましく唱歌しながら、ずんずん進む、ちいさな体。
白い、後ろ姿はひとり。ただ、静かに夜闇へ溶けた。

細く、歌声だけを残して。

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