15:00


「美味しかった」
「ね、なんだかんだ食べきっちゃったね」
「はい! なまえちゃん誘ってくれてありがとうございました」
「ううん。わたしもお母さんから聞いて来てみたかったから」

 駅前のイタリアンは母の言う通りとても美味しかった。メインのパスタに、サラダとスープが付いたランチセット。パスタは四種類から選ぶことができ、わたしはボスカイオーラを頼んだ。ツナと(綱吉のことじゃないよ)たっぷりのきのこを使ったパスタだった。他にもボロネーゼソースやジェノベーゼソースなど、様々な種類があったのでみんなで違うものを選んで少しずつ分け合った。
 クロームちゃん、京子ちゃん、ハルちゃんの順に言われ、それぞれ「ご馳走様でした」と手を合わせる。結構量があったけれど、美味しくてぺろりと食べてしまった。しかし、それで終わらないのが女子である。

「このあとどうする?」
「実はハル、近くのカフェが気になっていて……行ってみてもいいですか?」
「もちろん。甘いものも食べたいよね!」
「クロームちゃん食べれそう?」
「……少しなら」
「じゃあ行こうか」
「ありがとうございますー!」

 満場一致でカフェに向かうことが決まり、席を立つ。お店には二時間近く居座ってしまったが、ランチの営業時間は過ぎていないので大丈夫だろう。
 四人で集まるのは本当に久しぶりのことだったので、ランチ中は大いに盛り上がった。互いの高校の特徴を比べたり、少し前に開催された文化祭の話をしたり。京子ちゃん、ツナ、獄寺、山本あたりはみんな並高に行ったので、文化祭もお馴染みのメンバーで盛り上がったそうだ。ちょうど時期が重なって並高の文化祭には行けなかったけれど、話を聞いているだけでとても楽しそうだと思った。やっぱり相変わらず雲雀さんは雲雀さんらしい。文化祭のときも色々あったのだとか。

「そういえば来る途中ツナに会ったんだよね。雲雀さんのところに行くって言ってたな」
「え? そうなんですか? なんでですかね?」
「うーん、わかんない。なんか濁されちゃって」
「またなにかあったのかな?」

 ハルちゃんと京子ちゃんが首を傾げるなか、クロームちゃんだけは心当たりがあったようでこちらを振り返った。

「昨日、あの人たちが暴れたからだと思う」
「暴れた?」
「というより誰? あの人たちって」

 お会計を済ませ、カラン、と扉を開け退店する。するとクロームちゃんが、あっと声を上げると、続いてハルちゃん京子ちゃんも声を上げた。二人はどちらかというと、きゃあっと色めきだった声だ。しかし最後尾にいたわたしはその正体がわからず、三人の隙間から前を覗く。なにか見えたのかな。

「「なまえちゃん!」」
「え、なに?」
「お迎え!」「お迎えです!」

 なんの? そう首を傾げると、クロームちゃんが「ヴァリアーの、ナイフの人」と言った。ナイフの人? というより今ヴァリアーって言った?

「チャオ」

 三人に押されて前に行くと、そこには昨晩通話をしたばかりのベルさんがいた。わたしは思わず石のように固まって、ひえ、と変な声を上げた。なんなら今にも倒れてしまいそう。突然現れたこともそうだけれど……、ベルさんが見たこともない格好をしているから。

「あっ」
「ちょっと待って、無理!」
「なまえちゃん?」

 わたしはクロームちゃんを盾にして(ごめんなさい)背後に隠れた。他の二人が不思議そうにこちらを見ているが今はそれよりもベルさんだ。だって、だって……前回会ったときはさらさらストレートの、いつものベルさんだったのに、今日のベルさんは髪が伸びたせいかちょっとウェーブがかっててるんだもん!

「どうしたんですか?」
「ちょ、ちょっと突然だったからびっくりして……」

 久しぶりに会った好きな人がかっこよすぎて前が見れない、なんて言えない。けれどもクロームちゃん越しに「うしし」とベルさんの笑い声が聞こえたから、彼には全部バレているだろう。そろ、とクロームの肩越しにもう一度覗く。よく見れば服も隊服じゃなくて私服っぽいし、なんだかお洒落でスタイリッシュなモデルさんみたいな出で立ちだ。

「あ、あの、どうしてここに?」

 間に人を挟んで会話する、なんとも不思議な構図にクロームちゃんが少し気まずそうにしている。うう、ごめんなさい。もう少しだけ背中を貸してください。

「昨日言ったじゃん。こっち来てるって」
「え? うそ……」
「嘘じゃねーし。ま、お前寝惚けてたからちゃんと聞いてたかは知らねえけど」

 ストレートな言葉がまるでナイフのように突き刺さる。身に覚えがありすぎてなにも反論できない。もしかしてちょっと怒ってる?

「つーわけで、もらうわ」

 じり、と一歩近付いて来たので、反射的にわたしは一歩下がった。ベルさんのくちびるが少しだけむっとしたが、本当に反射的に動いてしまったので許して欲しい。だって、いつもよりもきらきらして見えるんだもん。しかし背後にはハルちゃんと京子ちゃんがいて、二人はベルさんににっこりと微笑むと、わたしの背中を押してこう言った。

「「はい! どうぞ!」」







- ナノ -