12:00


 待ち合わせ時間は13時と少し遅めだ。なんでも昨晩クロームちゃんから、「今日の予定(つまり昨日)でトラブルが発生して、いつ帰れるか分からないからなるべくゆっくりの方が助かる」と連絡が来たのだ。結局何時に帰宅できたのかはわからないが、翌日まで響くほどのトラブルって一体なにがあったんだろう。というよりも、そんな忙しいときに誘って申し訳なかったな、と思った。クロームちゃんは誘ってくれて嬉しいって言ってくれたけれど。
 並中を卒業して、京子ちゃんとも別の高校になってしまったので、四人で集まるのは本当に久しぶりのことだ。なので今日は少しおめかしして、お気に入りのワンピースを着た。実は、前にベルさんにプレゼントしてもらったもの。女子高生では手が出せないような金額のものでも平気で買ってしまう彼だけれど、これは普段でも着られるような、けれどもきちんと感もある清楚なワンピース。バッグもそれに合わせて、なるべく小さなものを選んだ。お陰で中身は財布、ハンカチ、手鏡、手のひらサイズのコスメポーチ、キーケース、スマートフォンのみだ。
 天気は気持ちのいい秋晴れで、すっきりとした青空が広がっている。薄手のアウターを着てちょうどいい気温だ。

「こんなくたくたなのにまた行くのかよ〜」
「仕方ねーだろ。アイツらがボロボロにしたお陰で、雲雀のやつカンカンに怒ってんだから」

 前方から情けない声が聞こえてくると、ひょっこりと沢田家の門塀からツナが姿を現した。近くにはリボーンくんもいる。どうやらちょうどお出かけのようだ。

「久しぶり、ツナ」

 彼と会うのは実に数ヶ月ぶりのことだった。わたしが声を掛けると、ツナは驚いたように目を見開いて声を上げる。相変わらずオーバーリアクションだなあ。けれどもそんな大袈裟な反応も、中学を卒業してからほとんど見ることがなかったからか、少しだけ懐かしくなった。安心感さえ覚えたほどだ。

「なまえと会うのなんか本当に久々だな……」
「近所なのに意外と会わないよねえ。ツナもどこか行くの?」
「あー……えっと、そう、ちょっと雲雀さんのところに……」
「雲雀さん? なんでまたあの人のところにわざわざ……」

 気が付いたら雲雀さんは陣地を並中から並高に移していた。ツナや京子ちゃんは同じく並高に行ったので彼によく会うらしいのだが、本日は土曜日だ。わざわざ学校に行く必要はない(当たり前のように学校にいる前提で話をしているがあながち間違っていない)。よく顔を合わせているからと言って、休日に会うまでの仲になったわけでもないだろう。つまりマフィア関連? でなにかあったのだろうか? 詳しくは知らないけれど、ツナがボンゴレファミリーという組織のボス候補だという話は聞いている。実際にちょこちょこ巻き込まれたりもしたので。

「それがちょっと色々あって……なまえはどこ行くの?」
「わたしはこれから京子ちゃん、ハルちゃん、クロームちゃんとランチ。駅前のイタリアン行くんだ」
「ああ! そうだった! クロームが昨日言ってたな……」
「え? ツナ、昨日クロームちゃんと一緒にいたの?」

 一体どんな予定が入っていたのだろうと思っていたら、ツナたちと一緒だったらしい。しかし彼はもごもごと言葉を詰まらせた。あ、今目逸らした。

「いやその……」
「まあいいけどさ。じゃあ行くね〜。待ち合わせ時間に遅れちゃう」
「ああ、うん!」

 リボーンくんもまたね、と言って手を振ると彼は小さな手を軽く上げた。クールだな。対してツナはなぜだかおそるおそる手を降っている。

「あ、あのさ、なまえ!」
「ん? なに?」
「あ、いや……やっぱりなんでもない」
「ええなに、すごく気になるんだけど」

 けれどもツナは言うつもりがないのか、今度こそしっかり手を振った。「気を付けて行ってらっしゃい」なんて、どちらかというとツナに言ってあげたいくらいだ。だって雲雀さんのところに行くって言っていたし。

「ツナもね。今度みんなで会おうよ」
「うん! じゃあまた」

 相変わらず慌ただしいところはあるけれど、彼はなんだか大人っぽくなったように見えた。卒業してから一年も経っていないというのに。前よりも少しだけ背が伸びたからだろうか?

 待ち合わせ場所に着く直前、ベルさんから「今起きた」とメッセージが届いた。向こうだと午前5時くらいだろうか。またすごい時間に起きたな。早起きとかしなさそうなのに。







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