月のように美しいあなた

 美しいものが好きだ。片時も離さず持っているナイフだって、満月のように煌めく彼女だって。
 時々憎まれ口を叩く時もあるけれど、彼女はいつだって真っ直ぐで、どれだけ血塗れになろうと凛としていて、月の光を宿した瞳が濁ることは無かった。もしかしたら彼女に見えている世界は自分とは違うのではないかと思ったこともあったし、いつからかその瞳の中に自分も写りたいと思い始めた。
 そんな月のように美しい彼女が今や自分のために悩み、密かに自分と似た色を纏って、そして着飾っているのだからこんなに可愛らしく、嬉しいことはない。
 目の前で眠りこける彼女は本当に暗殺者なのかと疑いたくなるほど安心しきっていて「着飾らなくたって十分だっつの」と、普段であれば絶対に言わない台詞を寝ている間にぽつりと呟いて頬をつまめば、ふにゃりと蕩けた笑みを浮かべて自分の名前を呼ぶのだから、キスの一つや二つくらい送ってやりたくなるだろう。


2020.10.08



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