内緒でつけてたあなた色
「まだ?」
人のベッドに寝そべりながら退屈そうにベルは言った。そんなことを言われたって女子は色々と準備があるのだ。パウダーを顔にはたきながら、私はベルを睨み付ける。
「まだ約束の一時間前なんですけど」
「オレはもう終わった」
今まで時間通りに来た試しがないくせに、なぜ今日はこんなにも早いのか。さっさと終わらせなければ彼の機嫌が悪くなっていくのは目に見えているが、毎度悩んでしまうのだ。
「おい、手止まってんぞ」
「アイシャドウどうしよう」
ヴァリアー隊員の上司と部下という関係でもあるが、これでも私達は付き合っていて、二人で何処か出掛けるとなると嬉しくなるし、いつもより少しでも可愛く見られたいと思ってしまう。それにはやはりメイクというのは大事なもので、こうして毎回何を使うか迷ってしまうのだ。
「早く」
「あのねぇ、悩んでるんだからちょっと待って」
「……、これ」
ベルは身を乗り出してドレッサーの上を眺めると、沢山並ぶアイシャドウの中からパープルのアイシャドウをつまみ上げる。
傾く度にきらきらと光を反射して輝く、ゴールドのラメがとても綺麗なそれは私のお気に入りだった。
「でもこれは」
「オレと任務被る時いつもつけてるやつだろ?」
「なんで知ってるの」
「だってオレ王子だもん」
いや王子関係ないし。そう言いたくなるのを何とか堪える。これじゃあいつもと変わらなくなってしまうが、好きな人が選んだ色ならばつけたいに決まっている。それにこのアイシャドウがお気に入りな理由はもう一つあるのだ。
「それオレみてーじゃね?」
分かっていながらこういうことを言うのだから本当にタチが悪いと思う。私は顔に熱が集まるのを感じた。
「ほんとお前、意外と可愛いとこあんだな」
「うっさい!」
ベルに内緒でつけていたはずが全てバレていただなんて、こんなに恥ずかしいことは無い。
2020.10.07