出逢えた幸せss | ナノ

■ 2014/お正月SS(3)―Feliz año nuevo!

「俺のサーブからでいいな。」

桜川先輩が前足に重心を置いて、サーブの構えをする。

俺は羽子板を握る手に力をこめた。

掌にじんわりと、汗が滲む。

辺りは水を打ったように静まり返って、まるで桜川先輩と俺だけしか居ない錯覚に捕らわれる。

桜川先輩が、手を前方に真っ直ぐ伸ばし、高いトスを上げ、羽子板を下から大きく後ろに振りかぶり、物凄いスピードで腕を振り下ろし羽根を打った!


「――うっ、わっ!」

とんでもなく力の入った打球?!じゃなくて打羽根?!が、俺の顔めがけて飛んできた!

「――ッ!」

羽根は、見事に俺の頬を直撃し、あまりの痛さに俺、涙目。

――なんなんだ、今の?俺が小さい時から姉ちゃんや啓太とやっていた羽根突きは、そんなんじゃなかったぞ。

桜川先輩のまるでテニスでもやっているような羽根突きに、俺は絶句する。

「どうした?もう降参か?」

だけど、ここで負けてなるもんか。

「冗談!まだまだ!」

俺は、気を取り直して羽子板を構えた。

だけど桜川先輩の打ってくる羽根は、とんでもなくスピードが速くて、俺は避けることも出来ずに、

羽根の球の部分が、身体の彼方此方にぶつけられて痛いっ!

しかも桜川先輩、絶対俺の身体に当たるように打ってるっ。

「…ッ…、」

俺はとうとう、床に膝を突いてしまった。


「どうした?まだまだこれからだぞ。」

桜川先輩が、俺を見下ろして嘲笑う。

――くっそぉ、悔しすぎるっ。

最後に羽根を食らった、脇腹を抱えるようにして桜川先輩を見上げる俺。


「――もう、その辺にしてあげてくれないかな。」

そう言って、俺の身体を庇うように肩を抱いてくれたのは、

「…透さん…。」

「もう直くん、こんなにボロボロだし、勇樹くんの勝ちってことでいいんじゃないかな。」

透さんの言葉に、桜川先輩は「ふんっ」と鼻を鳴らして、そっぽを向いた。

――やっぱり、いつだって透さんは、俺のことを守ってくれる♪

「でも、負けちゃったんだから、罰ゲームは受けないとね。」

――うん、そうだね…。


「…え?罰?」


「羽根突きの罰ゲームって言ったら、筆で墨塗るんだよね。」

言いながら、みっきーが人数分の筆を出してくる。

「な、なんでそんなもん用意してるわけ?」

「え?だって、お正月だから?」

と言って、カウンターの上に筆と…、

「ちょ、なにそれ?」

「え?何って、ローションだけど…、あ、これねブランデーの香りするんだよ。ほら、嗅いでみて?」

みっきーが、ローションの蓋を開けて、俺の鼻先へ持ってきた。



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