■ 2014/お正月SS(6)―Feliz año nuevo!
「直くん、こういうのが好きだったんだ。知らなかったな。」
そう言って、俺の頭を優しく撫でてくれる透さん。
――ち、違う!ううう、、なんで声出ないんだ。俺は精一杯助けてお願いと言わんばかりに目を潤ませて透さんを見上げるけれど、
「じゃあ、今度俺もこういうの直君にやってあげるね。」って、にっこり笑ってる。
え?透さんになら、何されてもいいけど俺…。とか考えてると自然に口元が緩んでしまう。
「はは、期待して笑顔になってるよ、直のやつ。」と、啓太の声がしたと同時に、
俺のケツにめがけて、桜川先輩が羽子板を振り下ろした。
パンッパンッ!て羽子板が俺のケツを打つ音が店内にこだまする。
――や、やだ――!やめて――!!痛っ!痛っ!
…痛い…ん、あれ?いたぃ…あ、れ?痛くない?
それどころか…気持ちいい…。何この振動。ゆっさゆっさ…って、身体が揺れてる…。
「…ふぁ?」
目を開けると、なんか視界が上下に揺れている…。
「目が覚めた?直くん。」
「…と、おるさん?」
いつの間にか、辺りは夜明けの薄白い明るみが広がりかけていて、
駅まで続く、緩くて長い坂道を透さんは、俺をおぶって歩いていた。
「寒くない?」
俺をおぶったまま、透さんが顔を横に向けてそう言った。
透さんの吐く白い息が俺のほっぺたをくすぐっていく。
「…うん、大丈夫。…ねえ、それより皆は?」
「もう朝だからね、もう皆それぞれ帰って行ったよ。」
「え?そうなの?…あれ?俺、寝ちゃったのかな。」
桜川先輩と、羽根突きの勝負してそれから…なんかブランデー入りのローションかなんか塗られて。
それから…
「ねえ透さん、俺さ、桜川先輩にケツぶたれたんだよね。」
確かになんだかケツが痛い…。
「え?何言ってるの?」
――え、違うのかな…でも、なんか身体怠いし、ケツ痛いし…。
「直くん、もうすぐ二十歳だけど、今年はあんまり無理してお酒呑んじゃダメだよ。」
「え?なんで?」
やっと二十歳になって、大人の仲間入りできるのに、酒呑んじゃダメって、なんで今そんなこと言うんだろう。
「年が明けて乾杯して、コロナビール一気呑みしたでしょう?直くんはアルコール弱いのに、そんなことしたらすぐに酔っちゃうよ。」
「え?俺、乾杯のあと、どうなったの?」
不思議に思って透さんの顔を覗きこむと、「憶えてないの?」って溜息とともに、呆れた声が返ってきた。
「ビール一気呑みの後、大人しいなぁと思って見たら、カウンターに寄りかかって寝てたんだよ、直くん。」
「え?」
えーーーーーー?!うそ。
憶えてないよ俺、そんなこと。
だからね…と、また透さんが首だけ振り返って喋るから、息が頬にかかってくすぐったい。
「お酒は、あまり呑んじゃダメだよ。」
「…うん。」
――なぁんだ。羽子板でケツぶたれたのも、皆でよってたかって俺の身体を弄り回したのも、
全部、夢だったんだ…良かった。
そうだよね、そんなこと、透さんが許すはずないもんね。
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【clap】
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「出逢えた幸せ」
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