短 篇 蒐


▼ 過去からの手紙

 今日は、大好きなおばあちゃんのお葬式だった。
 皆真っ黒な服を着て、私は高校の制服で、白黒の空間でお坊さんのお経をひたすら聞いていた。白い顔でお花に囲まれて眠るおばあちゃんを見ても、母と一緒にバンに乗って火葬場へ行っても、骨になったおばあちゃんを骨壺に入れても、一向にこれが現実だと認識出来なくて。ずっとぼうっとしていた。
 なのに、家に帰って一人になったとき、急に実感が湧いてきた。

 もう、おばあちゃんには会えない。
 優しい声で名前を呼んでくれることも。
 下手くそな絵を見て、唯子は天才だねえって褒めてくれることも。
 学校であった他愛ないことを聞きながら一緒にお茶してくれることも。
 もう二度とないんだ。これからの人生、永遠にないんだ。
 そう思ったら、涙が止まらなかった。

 家にいると静かすぎて一生泣き続けそうだったから、おばあちゃんちの山に来た。良く山菜取りやバーベキュー、花火をしに訪れた裏山で、何処を向いても思い出しかないところだ。

「この細い川、懐かしいな……」

 夏にはスイカを冷やしたり、おばあちゃんに教わって笹舟を作ったりしたっけ。
 思い返しながら笹舟を折って、川に近付いたときだった。川上からなにかが流れてくるのが見えて、思わず拾い上げた。うっかり手を離して笹舟が流れていったけど、あっと言う間に見えなくなっちゃったから諦めた。

「ボトルメール?」

 それは、手紙が詰まった瓶だった。少し欠けたコルクの蓋を外し、中の手紙を取り出してみる。
 手紙自体は綺麗なもので、文字もしっかり読むことが出来そうだ。

「おばあ、ちゃん……?」

 その字は間違いなくおばあちゃんの文字だった。
 優しい声が、文字を読みあげているかのように頭の中で再生される。

『ずっと一緒にいてあげられなくてごめんなさいね。優しい唯子が哀しみすぎないかおばあちゃんは心配です。お空で見守っていますから、どうか元気でね』

「っ……」

 どうして。いつ。どうやって。
 一瞬芽生えた疑問は、涙になって溢れて消えた。

「ありがとう、おばあちゃん。……泣くのは今日だけだから、心配しないで」

 おばあちゃんは愛してくれた。今日までずっと。
 その事実を大切に抱えて、私はおばあちゃんのいない明日を生きて行く。
 いつかお空で再会したとき、おばあちゃんに笑顔で迎えてもらうために。



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