短 篇 蒐


▼ 黒猫の気紛れ

 私の親友の玄冬(くろと)は変わり者だ。
 前世は猫だったとか、猫の魂が間違って人間に宿って生まれてきたとか、好き勝手言われてるのも構わず、我が道を爆走している。
 たまになにもない場所をじっと見つめていたかと思えば机に突っ伏して眠ったり。お昼と体育のときは元気で、でもプールは嫌い。数学と歴史のときは昼寝の時間。
 クラスメイトは彼のことを電波とか天然呼ばわりして、なにかある度イジってる。顔はいいのに魂が猫だからモテないとか何とか。

 でも、私は知ってる。
 彼の奇行がただの奇行じゃないって。

心彩(みあ)
「なーに?」

 課外学習のキャンプにて。
 河原でバーベキューをしていたときのこと。

「ついてきて」

 ついてきてもなにも。いきなり私の手を引いて、ずんずん歩き出したかと思えば、川縁でなにかを拾っている人たちに近付いていった。そのグループも私たちが早足で近付いてきているのに気がついた様子で、片手を挙げた。

「おー、クロ。飼い主とデートか?」
「うん。ねえ、それ」

 最早誰も飼い主に突っ込まないし、呼び名にも反応しない。

「これ? さっき拾ったんだよ。なんか流れてきてさあ」

 そう答えるクラスメイトの手には、随分汚れたボトルメール。
 中に入ってる便箋も何だか薄汚れているというか、黒っぽいシミがついている。

「貸して」
「えっ!? あっ、おい!」

 貸してと言いつつ奪い取って、彼は瓶を河原の石に叩きつけた。
 ガラスが割れる音が周囲に響き、近くにいた人たちが何事かと振り返る。

「お前、なにしてんだよ!」
「なにって?」

 全くわけがわかってない顔で、クロが首を傾げる。でも説明してほしいのは突然のぶち割り行為に驚いた周りのほうだと思う。本人に説明の意思がないから、代わりに私が皆に話しかけた。

「見て、これ。こんなの拾ったら良くないよ」
「は?……うわ!」
「やだ、なにこれ!」

 割れた瓶の中に入っていたのは、赤黒い字でたった一言『呪』と書かれた紙。

「猫はこういうの敏感だから気付いたんだねえ」

 よしよしと頭を撫でてやると、満足げに目を細めた。
 猫の行動全部が気分で意味のないものとは限らないんだよね。

 この件で皆が玄冬を見直したかと言えばそんなことはなく。
 彼自身もまた、以前と変わらずマイペースに過ごしている。





『気分』



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