短 篇 蒐


▼ 届かなかった想い

 私の故郷は、小さな島だ。島民全員が顔見知りで、全員が親戚と言っても過言じゃない場所。私と同い年の子は二人しかいなくて、今日もその二人と一緒に海岸を散歩していたら、波間に光るものを見つけた。

「あれ、何だろ?」

 拾って見れば、それは瓶詰めの手紙だった。コルクの蓋は少しボロくて、瓶自体も汚れていて、でも中身はまだ綺麗。

「見てみようよ」
「じゃあ、あっちで割ろう。ここだと片付けらんないだろ」

 大人たちから海を汚すなって教えられてきたから、陸地で瓶を割った。そのあいだ夕子ちゃんが商店のおじさんに掃除道具を借りてきて片付けてくれた。

「なんて書いてあるの?」

 手紙には、たった一言『ずっとお慕いしています』とだけ書かれていた。

「ラブレター?」
「だな。でもちょっと言い方古くね?」
「おじさんならなにか知ってるかも」

 私たちは借りたちりとりを返すついでに、手紙を持っておじさんに会いに行った。島唯一の商店を経営してるおじさんは、年齢的にいうとだいぶおじいさんで、島中の出来事を知ってる人だ。
 私たちが手紙を見せて、手に入れた経緯も話すと、おじさんは懐かしそうな表情で手紙を手に取った。

「この字はきよ江さんの字だね」
「知ってるの?」
「ああ、知ってるとも」

 この手紙は、何十年も前に島に住んでいた白浜きよ江って人が書いたものらしい。その人は病弱で、幼い頃静養に来てそのまま棲み着いたとかで、島民も良く気遣っていた。中でも年が近い男の子の清太郎さんはきよ江さんと仲が良くて、兄妹のように育ったのだとか。
 やがて思春期を迎え、色々と意識するお年頃になった二人は、どちらからともなく惹かれていった。けれど、こんな小さな島にもお国からの命は届く。
 清太郎さんは結局きよ江さんに思いを告げることなく本土へ渡ってしまい、音信が途絶えてしまう。きよ江さんも元々体が強くなかった人だから、戦争のストレス等が祟って若くして死んでしまった。
 いつだったか、おじさんはきよ江さんが思い詰めた顔で海辺に経っているのを見たらしい。そのときは入水でもするんじゃないかと恐かったそうだが、声をかけるのも憚られるほど綺麗な顔でもあったそうだ。

「きよ江さんは、ずっと待っているんだね」

 そう零したおじさんの顔は、何だかあの日に戻ったかのようだった。



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