「…どしたの、ぼーっとして」

目線を合わせるようにしゃがみ込んできたナマエの視線から逃れるように、ふいと思わず視線を反らした。

手持ち無沙汰を誤魔化すように甲板の片隅で広げた海図。今となっては趣味の延長のような航海術だが、それでも時折海図を広げて、記録していくのは好きだ。

「……マルコー?」

おーい、と視界を邪魔するようにひらひら眼前で振られる手のひら。それをそっと払い除けると、ナマエが伺うように顔を覗き込んで来る。

「なんでもねぇよい」

存外突っぱねるような、固い声音にぴたりとナマエは動きを止めて、払われたその手は行き場を探しあぐねたようにナマエの頭をかいた。

「あー、…悪い」

少しばかりしゅんと眉を下げて、ナマエは立ち上がって背を向ける。その背を睨むように見送りながら噛み締めた奥歯が、ぎちりと音を立てた。