「お前って番は作らねぇの」

言った途端左腕を振り抜かれて吹っ飛びながら、確かに今の言葉はデリカシーに欠けたなと一人納得した。俺はいつもそれで女に振られるくせに学習能力が足りない。

「いてて…歯が…」

欠けた。口の中がざりざりする。

それをウジ虫でも見るように見下ろして、クロコダイルはソファーにふんぞり返った。うん、αって感じ。偏見である。

しかしだからこそ、なんでこいつが俺といるのかわからない。いや、確か最初は酔った勢いとか、そんなのだったような。

何度かそうして爛れていると、ぽろっとαである事をカミングアウトされた。いや、確かあんとき押し倒されたからあれが噂の発情期だったのだろう。その弁解的なカミングアウトである。ところで発情期とはβがムラっとするのと違うのだろうか。違うんだろう。

のそのそ起き上がってふんぞり返るクロコダイルの横に腰掛けた。

「いやさあ、番作ったら発情期?もマシになるんだろ?」

「テメェは毎度、聞き齧った程度で物言うんじゃねぇよ」

「え、違うんだ」

「殺すぞ」

言わせるんじゃねえ恥ずかしい〜って脳内補完して黙った。別名妄想。

ふーんとソファーに体を投げ出したら、俺の長い足をこれまた長い足に蹴られ思わずうずくまる。容赦がねぇんだよこいつ。

覚えたばかりの葉巻を揺らしながら鼻で笑ったクロコダイルに見下され、ちょっと涙目だ。

「番なんざ邪魔になるだけだ。いらねぇよ」

「クロコダイルはケツ掘るより掘られる方が好きぃッだァ!!」

「殺すぞ」

でもあれだろ、αって発情したΩにどうしようもなく盛っちまうっていうじゃねぇか。猫みてぇに。

こいつがどうしようもなく盛るところ、見たいような、見たくないような、複雑な心境だ。だってさぁ、俺、ぶっちゃけ好きなんだよ。

裏拳に強打された鼻を摩る俺を、いつもの憮然とした顔で見下すこいつが、なんとも言えないほど好きなのだ。

「…番が出来ると、発情するのってそいつだけになるって本当?」

「まぁ、そうだろうな」

「ふーん…なんか、やだな」

やっぱ、やだ。こいつに番が出来るの。