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「#エロ」のBL小説を読む
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「雨だ」


ぱらぱらと小雨が
降り始める

家まで歩いて帰るには
まだもう少し時間が
かかるというのに



「やだ、雨じゃん
走って帰る?」

「こんくらいならいけるっしょ」



周りはざわざわと騒ぎ始め
駆け足でタクシーや
店の中へと駆け込んでいく

傘を持っていない私も
近くのコンビニへと
駆け込み傘を買うことにした



だが



「申し訳ありません
先程、売り切れてしまって…」

「えぇ?!」



そんなことって、あるものなのか
あまりのタイミングの悪さに驚く

無くなってしまったものは仕方が無い


「走って帰るしかないか」




私はダウンのフードを被り
コンビニを飛び出した


そんな極端な考えさえ
タイミングが悪いとは
思いさえしなくて



_______________







「…はぁっ、はぁっ」


春だというのに
夜の風はとても冷たい
そんな冷たさが雨に混じって
体に浸透する


白い息を切らしながら
全力疾走する私に
まさかの悲劇は起こる




ドンッ





「わっ・・・!?」


フードで前がよく見えなかったせいで
誰かにぶつかってしまう

その勢いで相手も私も
勢いよく地面へ手をついた




「いたたた・・・・」

「おい」


顔をあげた目の前には
黒のスーツを着た
目つきの鋭い男




「ひっ・・・!」



睨むようにこちらを覗かれ
私は怖くて素早く立ち上がる

男もゆっくり立ち上がると
持っていた傘を拾いさし直した




よく見ると私がぶつかり
膝をつかせてしまったせいで
スーツが汚れてしまっていた



「・・・す、すみません・・・!
お怪我はありませんか!?」

「・・・いや、平気だ」

「しかもスーツに汚れが・・・
本当にごめんなさい・・・
あの・・・、そのスーツ弁償します」



無口そうなその男の目が
なんとも恐ろしくて
視線を少し外しながら
私は深々と頭を下げる




ところが




「・・・お前、傘は無いのか?」

「へっ・・・?」

「無いなら、これ使え」


私の言葉を聞き流すように
男は持っていた傘を差し出してくる


「い、いや・・・
無くても大丈夫です
もう、濡れちゃってるんで
それに、その傘がないと
あなたも濡れちゃうじゃないですか」

「・・・別に俺のことはいい
というよりお前・・・結構な雨だぞ
傘くらい買えば良かっただろう」



不思議そうな顔で
眉を歪めてこちらを見る


違う、買わなかったんじゃなく
買えなかったのだ



「わ、私だって今頃買えてたら
雨になんかうたれてませんって・・・」

「・・・?」

「へ・・・へっくしょんっ・・・!」


そうしている間に
雨にうたれてて
体が冷えてしまったのか
くしゃみが出てしまう

と同時に男は私の腕を
直ぐさま掴み引っ張ると
その傘の元へと引き寄せられた



「っ・・・?!」

「・・・送ってやる
家は何処だ」

「え!?い、いやいや!
それは悪いですし・・・
というか意味が分かりません!
ほんと、傘なくても大丈夫ですから!」

「いきなりぶつかってきた相手が
俺にどうこう言える権利なんてないはずだ
・・・そうだろう?」


距離が近くなった上に
さらに顔を近づけられる

あまりの近さに
頷くことさえできない



「そ、それじゃあ・・・あの
・・・お、お願い・・・します・・・?」

「・・・家はどっちだ」

「あ、・・・こっちです」



カタコトのような返事をすると
急に男は歩き出す

大きな歩幅に合わせて
私も合わせて歩く






知らない男と一緒に
相合傘をしているなんて

今日は本当に
なんて日なんだろう



_________________





特に深く会話をすることなく
10分程歩いたところで家に着く



「本当に色々すみませんでした」

「いや、こっちも無理に
ついてきてもらって悪かったな」

「ついてきて・・・もらう?
と、とにかく・・・助かりました
ありがとうござ・・・」


軽くお辞儀をして
お礼を言おうとした時だった



「会長!」



どこからか声がして
振り返るとまたもや
スーツを着た男達が
今まで傘をさしてくれていた
男を囲むように駆け寄ってくる



「此方に居らしたんですか・・・」

「失礼ですが・・・そちらの方は・・・?」

「この女は関係ない
奴らに勘付かれないよう
付き添ってもらっただけだ
ところで神田はどうしてる」

「いや、まだ表には出てないようです」

「そうか」



そんな状況にも
話にもついていけず
私はただ、おろおろとする




でも話を聞く限り、
もしかするとこの人は





「とにかく東城会へ戻りましょう」

「・・・あぁ」

「・・・!!」



”東城会”という言葉に
私は初めてこの男が
ヤクザ者だと気づく

男は傘を私に持たせると
近くに停まった車へ乗り込んだ



「あなた、ヤクザだったんですね」

「・・・出してくれ」

「・・・あのっ!」

「・・・」

「このお礼、いつか返しますから!
この傘も・・・そのスーツ代も!」



男はこちらを向くと
妖しげに小さく笑う



「・・・次、もし会えればな」



ドアが自動でバタンと閉まり
男が前を向くと、車は発進し
私は家の前に一人取り残されてしまった





________________




ザーザーと振り続ける雨の中
私は渡された傘を見つめる


ヤクザなんて、もっと
酷く怖いイメージがあって
暴力的な人ばかりなんだと思っていた




”・・・次、もし会えればな”




名前も知らない、赤の他人

たった数分の、短い時間
傘の中に入れてもらっただけ
家に送ってもらっただけ

それだけ、なのにな






・・・もし、会えるとするなら
私はあの男の人に
お礼をしてもいいような
存在なんだろうか



「・・・ヤクザ、か
また、会えるのかな」





私はいつかまたその人に
もう一度会えることを祈って
受け取った傘を大切に保管したのだった





__________________






※リクエスト返答でした!


ふとした何気ない日常に
もしありえないことが起こるなら
こんな出会い方をしてみたいな
と思いながら創りました!

峯さんの少し怖い雰囲気の中に
少しだけ優しさを感じてもらえたら
と思います!

この終わり方だと創った自分も
なんだかもやもやしてしまうので
続編を作る予定です!(笑)

いつになるかは分かりませんが
またよろしくお願いいたします!








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