6話
「苗字大先生手出して」
「手?」
「いいからいいから」
言われた通りに手を出すと、アルファベットチョコレートが2個と、板ガムが1個手に落とされた。
「あ、ありがとう……?」
「おう!グリーンアップル味平気か?チョコは?嫌いじゃねーよな?ま、嫌いだったら姉ちゃんにでもあげろよ」
「嫌いじゃないよ、大丈夫」
それなら良かったぜって丸井くんはニコニコ笑いながら私の隣の席の椅子を引いた。
今日は例の移動教室で、前回と同じように丸井くんは私の隣だ。
「なんでくれるの?」
丸井くんの返答を聞く前にチャイムが鳴って、日直のやる気のない号令がかかる。
「チョコとガムってさ、一緒に食べると溶けるって言うだろぃ?」
号令に従って着席した後、ニヤニヤと笑った丸井くんが小声で言う。そんな丸井くんを見ながら、私はノートを開いた。
「あー、うん、言うね。……試さないよ?」
「なんでだよぃ」
「丸井くんこそなんでやらないの!自分でやればいいでしょ」
「うまいもんはうまいまま食いてえ」
「私も美味しく食べたい」
「そんな怒んなよ名前ちゃん」
軽く私の背中を叩いた丸井くんはまだニヤニヤ笑ってる。
からかってるつもりなんだろうけど、でも、男の子に名前呼びで、しかもちゃん付けで呼ばれたのなんて、私は小学生の時以来なんだけど……!
顔は赤くなってる気がするし、心臓もバクバクうるさいし。せめてそんなことが丸井くんに伝わってないことを祈った。
「今のは冗談で、ほんとは勉強教えてくれたお礼な!お前のおかげでなんとクラス順位半分超えたぜぃ」
「えっほんとに!?おめでとう!」
「ほんとほんと。いやー、まじで感謝」
「感謝されるほどじゃないよ!むしろこちらこそっていうか……。私もね、丸井くんに教えてたおかげで……」
「おかげで?」
「実は、初めてクラス1位になった」
少し周りを見渡して、声を潜めて言うと、丸井くんが吹き出した。
面白いことは言ってないはずなんだけど。
「そんな小声で言う必要ねーだろぃ!」
だって、自慢してるみたいで感じ悪いかなって思ったから……。そこまで爆笑しなくてもいいのに。
「チョコ1個おまけしてやるから拗ねんなよ」
「拗ねてないよ」
「はいはい。あ、ちゃんとすげーって思ってるからな!おめでと」
「ありがとう」
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