「めんどくさいね」

「頑張ろうよ」

「そうは言ってもねぇ」

はああああとため息をはいてからめんどくさい、と漏らすと頭を叩かれる。言い過ぎだって思いが手から伝わってくる。

そうは言ってもしょうがないと思う。だって、あの跡部さんに教科書を返すなんてめんどくさいとしか言いようがないだろう。あの跡部さんだぜ。

まず、跡部さんを呼んでくれと頼むところからしてめんどくさい。忍足が言うならまだしも、私みたいなやつが頼むとか大騒動になりかねないじゃないか。

「あ、樺地くん」

「誰?知り合い?」

「違うよ。ほら、跡部さんとよく一緒にいる」

千尋ちゃんが目を向けている方を見るとわかりやすいほどのでかい体。さっき跡部さんと一緒にいた子じゃないか。

そういえば、跡部さんには護衛みたいな人がいるってよく聞いてたけど、樺地くんとやらが例の護衛さんか。

「私、あの子に教科書返してくる」

「いってらっしゃい」

どこにいてもすぐわかる樺地くんとやらの元へ教科書を持って行く。この無駄に存在感がある教科書は私の手にあっていいものではないのだ。

「樺地くん!」

声をかければ、巨体が振り向いた。ちょこっとだけ怖いと思ったのは内緒にしておこう。

「あー、ごめんね。いきなり声かけて。誰かわからないかもしれないけど」

「…分かります」

「なら良かった。突然で悪いけどこれ、跡部さんに返しといてくれないかな」

「ウス」

樺地くんと目を合わせると、何か話さなければいけない気がしてくるのはなんでだろう。えっと、と言葉をつなげようとするけど、話なんてそうそう出てこない。

「跡部さんって、変な人だよね。一緒にいるの大変そうだね」

「跡部さんは…いい人です」

「そうなんだ」

「ウス」

「樺地くんもテニス部なの?」

「ウス」

「向日とかうるさそうだよね」

「皆さん…面白い人、です」

「面白いよりうるさいと思うけど」

あんなやつらのことを面白いで一括りできるだなんて…テニス部はいい後輩をもったな。

テニスと樺地くんが結びつかなくて、うーんと頭を捻ると、どこかからパチーンと音が響いた。

この指ならしは跡部さんか。女の子たちの歓声が響く。と同時に、視線を感じた。今一緒にいるのは樺地くんだけだから、視線の主も樺地くんしかいるはずないんだけど。

「跡部さんのとこ行っていいよ?引き止めてごめんね」

ぺこりと頭を下げて樺地くんは跡部さんの元へ向かう。

ここまで完璧な跡部さんの護衛だったとは。樺地くんと話すには跡部さんがいない状態じゃないと話せない気がする。
|

←目次へ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -