体育館へ入るとステージには小春ちゃんと一氏。ぐるっと見渡しても人がいっぱいで数時間前の私だったらただ喜んでいただろうなと思う。
でも今は、こんなところで挨拶をするなんていうプレッシャーで素直に喜ぶことが出来ない。

「名前!遅かったやん」
「...ごめん。」
「なんかあったん?」

その問いに答えたのは副会長ちゃんで、

「ごめんなぁ、白石くん。名前これでも生徒会長やから挨拶せなあかんねん。借りてくわ」

ぽかーんとする白石を余所に、副会長ちゃんは歩いていく。あぁ、一氏と小春ちゃんのライブ最後までみたかった。そんな願いもむなしく、私はずるずると引きずられていっているんだけど。

「一応、自分の名前、学年、その他学校生活のこととかそんな感じのこと話してくれればいいらしいから。」
「そう言われてもなんもない…」

どうしよう。頭が真っ白というよりはその言葉で真っ黒に塗りつぶされている感覚に陥るくらい、本当に何も考えていないのに。待つということをしらない放送委員が『続いては〜〜え〜〜生徒会長からの挨拶です。よろしくお願いします』なんて間延びした声で言って、私はステージに放り出された。放送委員の男子は覚えとけよ。

「あ、え、っと、皆さんこんにちは」

登場から挙動不審だからかくすくすと、笑い混じりのこんにちはが返ってくる。
…ごめん副会長ちゃんもう心おれそう。

「一応生徒会長やってます、2年2組の苗字名前です。」

一応ここまではマニュアルがあったし、言えるけど、本当の難関はここからだ。ここまできたんだから。ぐっと気合いを入れ目の前の一年生たちを見る。

「皆さんは、コミュニケーションとか得意ですか?」

ざわざわ、得意やでー!なんて言ってる子、そんなにかなぁ、なんて呟いてる子、それぞればらばらだ。

「正直、私は、苦手です。でもこんな私でも一応友達ってものが出来ました。この学校はノリがいい子も沢山ですがとにかく人のことを考えて動ける子が沢山です。やから皆さんも心配せず学校生活を送ってください。」

これはなかなかな挨拶なんやないかな?!どう?!そんな気持ちを込めて放送委員と副会長ちゃんの方をチラ見してみる。
すると、放送委員が何かを伝えたいようで、口をぱくぱくさせている。

(みじかすぎ)

読み取れた言葉は余りに残酷な言葉で私は軽くパニック。一年生もステージで黙りこくる私に不信感を覚えたのだろう。少しざわざわし始める。

「えー、私は、」

そんな言葉をいってみても言葉は続かない。どうしよう。再び頭が真っ黒になりそうだったその時に、白石と目があった。

「えっと、そう、一年生の時、私に一番に話しかけてくれた白石くん!前にどうぞ」

私の突然の無茶ぶりと言う名のSOSに白石は当然驚いている。でも、仕方ないな、そんな風に笑ってこちらに来てくれるから、多分もう安心だろう。

「只今無茶ぶりを受けました、白石蔵ノ介です。皆よろしくな」

一年生の女子から黄色い声援を浴びながら、一年の時の思い出、行事、部活の楽しさなんかを完璧に話してくれて、なんとか、生徒会長の話は終わることができた。

「ひやひやしました」
「ごめんね」

副会長ちゃんに笑って返したら怒られたけど、終わりよければ全てよし、だ。先生にも怒られなかったし。
でももうこんな思い嫌だから今度からはちゃんと副会長ちゃんの話は聞こうとこっそり決意した。




「助かりました、ありがと」
「突然の無茶ぶりはあんま得意やないんやけどな」
「う、ごめん」
「まぁでも、助けれたならよかったわ」
「ほんとありがとう。白石は神様だわ。」
「よし、じゃあ今度神様になんか献上してや」
「……安いので頼みます」
「よっしゃ、楽しみやわぁ」
「安いのやからね!」
「わかってるわかってる。じゃあ、俺は少し用あるから先行くな」
「うん。」

『いい友達が出来るってのはええもんです』ちらりとこっちを見たあと、一年生にそういってくれた白石を思い出して、本当にいい友達を持ったな、心からそう思った。
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