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その4 決戦、ビーチフラッグス


『アメリカンバイソン』

ウシ科、バイソン属.
別名、アメリカヤギュウ。アメリカバッファロー。

*******


「おかえり」

人ごみの中を掻き分けて、みんなのもとに戻ってきた私と跡部を、忍足先輩が迎えてくれた。
おや?と私と跡部を見比べる。

「どうしたん?同じとこにシミなんか作って」

私たちの胸の辺りを指さす。
跡部のTシャツと私のパーカーには複雑な色の染み。
レインボーカラーのかき氷が互いの胸にぶつかったのだ。

「ちょっと事故です」

そう、ちょっとした事故。
跡部にハグされるという事故。

「ふうん」

忍足先輩はチラリ、跡部に視線を向ける。

「樺地」

涼しい顔をして跡部はTシャツを脱ぎ、樺地君に投げた。
ナイスキャッチをした樺地君が「替えを用意しましょうか?」と尋ねると、跡部は首を振る。

「いや、いい。少し泳いでくる」

青い海へと向かう跡部。
渚の女の子たちの熱い視線を集めながら。
いつもと変わらないピンと伸びた背筋。

(むかっ腹が立ってきた)

めちゃめちゃ涼しい顔してたじゃないの、あの坊ちゃん。
人に情熱的なハグしておいて。
こっちは軽くパニックだったてのに、意味が分からない。
どうしてあの流れで熱い抱擁になるわけ?ただの気まぐれ?

(なんにせよ、今日はイケメンたちに翻弄されすぎだわ。私)

身が持たない。
本来の自分を取り戻して、氷帝や立海の美少年たちを一眼レフにおさめよう。
両手で己の顔を一度叩いて冷静さを取り戻す。
すぐそばにいた幸村さんと目が合う。

「幸村さん、体調大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう」

顔色もよくなっているし、元気そう。
よかった、と自分の胸を撫でおろし、はたと気づく。
人から買ってもらったものをろくに食べもしないでこぼしてしまった。

「かき氷、ご馳走様でした。こぼしてしまってすみません」
「気にしないで。それより脱いだ方がいいんじゃない?冷えると風邪ひくよ?」
「そうですよね」

パーカーを脱ごうとしたら、「ゴホン!」と大きな咳払いが聞こえた。
気にせず再びジッパーに手をかける。

「ゴホ!ゴホ!ゴホ!ゴヘ!!」
「何やねん、真田」

忍足先輩が咳き込む真田さんを睨む。
耳まで真っ赤な立海副部長。

「ゴホっ!女子が人前で素肌を晒すものではないぞ!たるんどる!」
「下に水着を着てるじゃないッスか」

切原君が、はて?と首をひねる。
私は”安心してください、はいていますよ”のあのポーズをとる。
某芸人の物まねをしたのだが、真田さんはスルーする。

「そっそれはそうだが、もっと露出度の低い水着にするべきではないか」
「露出度の低い?というと?」
「中学生らしく校区外でも学校指定の水着を着るべきだ!氷帝は後輩への教育がなっとらん!」

す、スクール水着ですか?
忍足先輩が猛抗議を入れる。

「アホか!こんなところでスクール水着なんて着てウロチョロしてみ!誘拐される!」
「忍足さんみたいな人に」

日吉がそういうと、忍足先輩は”それは最悪の事態や”と顔を青くした。
最悪だという自覚はあるらしい。

「おおい!」
「みんな〜!」

丸井さんと、ジロー先輩が両手にペットボトルを抱えてこちらへ走ってくる。
アイドルみたいな顔をした二人がこちらへやってくる。
でれでれ鼻の下を伸ばす私。
丸井さんのことを常日頃リスペクトしているジロー先輩はすっかりなついている様子。

「なあ!ビーチフラッグスしようぜ!!」
「しようしよう〜!!」
「ビーチフラッグス?」

なにそれ?
頭上にクエスチョンマークを飛ばしていたら、立海の参謀、柳さんが説明してくれた。

「ライフセーバーが反射神経を鍛えるために浜辺で行うスポーツだ」
「はあ」

今のは相槌ではない、スッと鼻筋の通った柳さんの美しい顔に溜息がもれたのだ。
そうそう!と丸井さんがうなずく。

「離れたところに人数分より少ない旗、がないからこれを代用するんだけど」

丸井さんは空のペットボトルを一本かかげた。

「寝転んで、合図と同時に起き上がって走る、掴めなかったヤツは脱落。それを繰り返して少しずつ減らしていくんだ」
「なるほど、残った者が勝者というわけだな」

腕を組んで真田さんは目を光らす。
興味がわいたようだ。

「面白そうだな」
「俺、参加するッス!」

切原君が元気よく挙手。
立海メンバーに向かって真田さんが声を張った。

「うむ、立海は全員参加だ!」

グッと拳を握り締め、うなづく立海のイケメンたち。
そんな部員達を眩しそうに見つめ、幸村さんが口を開く。

「俺は遠慮するよ」
「え…」

大丈夫ですか?やっぱり体調が悪い?と心配顔の私に、幸村さんは”大丈夫”と微笑んだ。

「ちょっと悪い気に当てられただけだから」

幸村さんはにぎわう浜辺を見つめた。

「やっぱり何か居るんだよね、ここ」

さっきもそんなことを言っていたような……

「氷帝は?どうする?」

昨年、全国制覇を成した立海テニス部部長は、誇らしげに臨戦態勢の部活仲間に目をやったのち、氷帝のマネージャーを挑発する。
もちろん、マネージャーとして受けて立つ。
愛する正レギュラーたちはやる気満々、準備運動の最中です。

「うちの選手が勝ちます」

***********


「どりゃああああああああああ!!」

ペットボトル目がけて砂浜を走る美少年達。
「氷帝VS立海 男だらけのビーチフラッグス大会」も、一回戦、二回戦を終え、ただいま白熱の準決勝。
立海は真田さん、仁王さん、切原君。氷帝はジロー先輩、岳人先輩、宍戸先輩が残っていた。
全国区、スーパー中学生たちが繰り広げているこのビーチフラッグス大会に人だかり。
芸能人か?何かの撮影?とギャラリーたちがざわめき、背後では女の子たちの黄色い声が飛んでいる。

いや、だって、美しいもの。
こんな美形ばっかり集まってたら、そりゃ視線を集めちゃうっての。
キラキラ、ピチピチしちゃってるもの。
見てみて、仁王さんったらまつ毛長い、真田さんも渋いが整った顔してるし、切原くんはかっこいいんだけど可愛い。
シャッターチャンスだ、きらめく夏の美少年たちを記憶しておかなければ!
と一眼レフを取り出す。

「なかなか盛り上がってるじゃねぇか、俺様も参加してやるぜ」
「わ!」

海から上がってきたばかりの跡部が背後にいた。
濡れた前髪からポタポタと雫が落ちて、色っぽい。
見惚れていたら、一眼レフを奪われた。

「ちょ!返してよっ!」
「おい、ジロー。そいつをよこせ」
「これ?」

ジロー先輩は空のペットボトルを差し出した。
跡部はカメラからマイクロSDカードを抜き取り、カラン、とペットボトルの中に入れた。
な、

「何すんのよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

砂埃を巻き上げ、地団駄を踏む私。
返して!返して!
そのカードには隠し撮ったみんなの笑顔が詰まってるんです!
ジャンプしてもまったく届かないので、跡部によじ登る、が、腕のリーチがまるで違う。届かない。

「おい、丸井。受け取れ」

宙を舞うペットボトル、ボレーのスペシャリスト丸井さんは天才的な反射神経でキャッチする。
跡部様が悪魔のように美しい笑顔でペットボトルを指す。

「決勝はそれを使うぞ」
「え」
「取り返してみな」

そ、それって……嫌な予感しかない。
そして、その予感は的中する。

「お前も参加だ」
「じょ…冗談じゃないわよ〜〜〜!!」

叫んだところで、準決勝が終わった。
決勝進出メンバーが出そろったのだ、ファイナリストは真田さんと宍戸先輩。
これに跡部が加わる、私は頭を抱えた。

「勝てるわけないじゃない」
「そうか、じゃあ諦めな」

跡部はひらひらと手を振った。
怒りでお口がアングリーである。
私がどれだけ必死で隠し撮ったと思ってるのよ。

「そんな簡単に諦められるワケないでしょ〜が!」

そのカードの中にはね、切原君の細い腰だとか、仁王さんの長い手足だとか、丸井サンの美しい顎のラインだとか、神様に愛された美少年達の芸術作品がワンサカ詰まってんの!
全国美少年調査連盟の極秘資料になるデータだってのに、諦めてたまるかっつ〜の!!

「いよ〜し、走ってやろうじゃないの」

私がアキレス腱を伸ばしていると、

「ちょっと待ってください」

ジェントル柳生様が”待った”と片手をあげる。

「危険じゃないですか?」
「そうだぜ、真剣勝負なんだぞ」

勝負に水を差すなよ、と宍戸先輩が立ちはだかる。

「体格の差もあるし、ぶつかったら怪我するぜ?」
「もう一度言ってください」
「は?」
「”怪我するぜ?”、と。できれば”俺に触ると”というフレーズを付け加えていただけると有難いです」
「はあ?」
「さあ、どうぞ」

宍戸先輩の、”俺に触ると怪我するぜ?”という熱いセリフを期待し、耳を澄ませていたら

「もういい、好きにしろよ」

シッシ!と追い払われました。
きっと、かまうのが面倒くさくなったのでしょう。そんなこともあるでしょう。
さじを投げられた私へ、ジェントル柳生さんが同情を寄せてくれる。

「いいんですか?本当に」
「柳生さん。女にには闘わなければいけない時かあるんです」

今が、その時。
私は波の音を聞き、静かに目を閉じた。

「大事なものを守るために……立ち上がらなければならぬ時が」

DJ、ここで一曲リクエストしてもいいかしら?
私の闘争心をかき立てるナンバーをお願いするわ。

「ユリア〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

北斗の拳のテーマを。
”ゆあしょっく!”ユリアを奪われたケンシロウの心境で叫ぶ私を見て、

「彼女はどうしたんですか?」

柳生さんが2メートルほど距離を取る。
いつものこと、と忍足先輩が笑う。

「大丈夫やで、沙穂は足速いで〜」

お前ら度肝抜かれるで、と続けた。

「なんせ、驚異の脚力とガッツで、うちのマネージャーの座を勝ち取ってんから」

夏の高い空の、一番てっぺんに太陽が昇った。
ピュイ!ギャラリーの指笛が海岸に響く。
最終決戦のメンバーを紹介しよう。

「絶対勝つ」

拳を打ったのは、不屈の男、みんなの兄貴、宍戸先輩。

「勝つのは俺だ」

髪をかき上げ、ギャルたちを熱狂させる、狂える恐怖の暴凶星、跡部。

「叩き潰すのみ!」

腕を組み、中学生とは思えない威厳オーラを発する、風林火山、真田弦一郎様。

「愛を取り戻せ」

で、氷帝の美少女マネージャー、愛を背負う北斗神拳継承者、安積沙穂。
この4人で狙うは、あの一本のペットボトル。
なんとしてでも奪い返さなくては。
ペットボトルまでの距離は、20メートル。
勝敗がつくまで3秒から4秒ってところか。
私たち4人は進行方向と逆を向き、熱い砂浜にうつ伏せでスタンバイ。

「レディ……」

主審は丸井さんがつとめる。

「GO!」

掛け声とともに起き上がり、砂を蹴る。
進行方向へ向きなおした時点で、三人の背中は数メートル先だった。
瞬発力が超人レベル、歯が立たない。

「っく!」

負けじと砂をけるが、

「ああ!」

目の前で跡部がペットボトルを掴んで……あの悪魔の笑みを浮かべた。

「ほうら、取ってこい」

そう言って、跡部の手を離れたペットボトル(SDカード入)は放物線を描き、海へと落下した。

「バカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

私は直角に曲がり、雄たけびを上げ、猛スピードで海に突っ込む。

「うおおおおおおおおおおおお!」

背後から日吉の声で、

「見て下さい、あれがアメリカンバイソンですよ」

って聞えたけど、今はそれどころじゃない。

「ユリア(SDカード)〜〜〜〜〜!!!!」

バシャバシャ波をかき分ける。
必死の形相で泳ぐ私に、海水浴客たちが小さく悲鳴をあげ避けていく。
どこ!?どこに行ったの!?
切原君の腰!仁王さんの腕!丸井さんのライン〜〜〜〜〜!!!
目を凝らすと、数メートル先にキラリと光る物体。

「あ!あった!!!」

感動の再会である。
波に揺られ、プカプカ浮かんでいるペットボトルを掴んで、勝利の雄たけびと両手を挙げようとしたが…

「!」

私は両手で胸を押さえ、海へ潜った。
出るに出られず途方に暮れる。

(………ど、どうしよう)

う、動けない。

「おい、安積!」

なかなか上がってこない私に、しびれを切らした跡部が近づいてくる。
ま、

「待って!来ないで!」
「アーン?何だよ、様子がおかしいぞ。いつもだが」
「跡部……」
「早く出て来い」

私は眉を八の字にして、海面から顔を出す。

「無理なの」
「は?」
「水着がどこかにいっちゃったのよ〜!」
「水着……」

跡部は”あ”と気づき、こっちにやって来ようとしているみんなに叫んだ。

「来るんじゃねェ!」

どうしよう、恥ずかしい。
跡部はキョロキョロと辺りを探してくれてるが、こんな広い海の中で私のビキニなんて見つかるはずない。

「うう……」
「泣くな」
「跡部のせいだ…ううう」
「何で俺様のせいなんだよ」
「あんたがSDカードを投げるから」
「うるせェな、何とかしてやるから黙ってろ」

何とかって…

「ここにいろ、上着を取ってきてやる」
「待って!」

一瞬振り向きそうになったが、すぐに背を向け、跡部は小さく舌打ちをした。
私、身動き取れないんだから置いていかないでほしい。

「誰か来たらどうするのよ、ここにいてよ」

こんなカッコのまま一人にしないで。

「安積」
「なに?水着あったの!?」

跡部が浜辺を指を差す。

「お前の水着ってあれか?」
「え?」

指された方向に目をやる、砂浜に見たことないイケメンがいた。
白いTシャツにジーンズ、日に透けそうな薄茶の髪。
彼は、手に持った何かを嬉しそうに振り回している。

「あれは……」

あれは!!!

「私の、水着!」
「お前ら!そいつだ!」

氷帝と立海メンバーに跡部が叫ぶ、みんな一斉にそちらを振り返った。

「そこの変態を確保しろ!!!!」

手に握られているそれを見て、私が動けない理由を察知したみんな。
突き刺さる視線を集め、水着ドロボーは笑った。

「わーお、変態って俺のこと?」
「てめえ……」

海の中にいたメンバーはしぶきををあげ、浜にいたメンバーは砂を舞い、スーパー中学生たちは走り出した。

「御用、御用、御用だ〜!!!」

謎の変態イケメンは3.7秒で縄を打たれた。


***************


これが、私が記憶している”バクさん”とのファーストコンタクト。




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