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その2 ジーク・ジオンが海辺のマナー


潮の香、ひと夏の思い出つくり。

*********

扉を開放するとビーチまで0秒、心躍るロケーション。


「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!う〜み〜〜〜!!」

キラキラと光る水平線。
目の前に広がるパノラマの青、青、青、コバルトブルー。
胸が高鳴り、サンダルを脱ぎ捨て、サラサラな砂の感触を感じ、海へと駆け出した。
一番最初に飛び出したのに、次々にレギュラー達が追い抜いていく。
砂に触れる足の裏が、背中がジリジリと熱い。
仲間や先輩たちが水しぶきを上げて海に飛び込んでいく。

「きゃ〜〜〜〜〜!」

打ち寄せる波が透明度を物語っている。
砂浜を蹴り、海へと飛び込んだ。
気持ちいい!水面へと顔を出す。
突き抜ける青い空にしぶきが舞った。

「沙穂!」

振り返ると水をかけられた。

「岳人先輩!」

私も先輩にお返しをする。
これぞまさに青春の1ページ、輝く白浜にキラキラの美しい男の子たち。
ありがとう、お母さん。
生んでくれてありがとう。生きていてよかった。
日常から離れたリゾート感、青い海にみんなのテンションは高く、はしゃいでいる。
いやぁ、みんな毎日部活で鍛えてるだけあって素敵な体してるわ。
見て、見て、あの輝いているダブルス1の二人の鎖骨。

「はあ、はあ…」

し、宍戸先輩…鳳くん…心臓、バクバクして参りました。
胸を押さえてときめいていると、ビーチボールが飛んできた。

「ぶ!」

顔面に直撃して海に沈む。
ブクブク白い泡で真っ白、どっちが上だか下だか分からない。
もがいていると、海面から誰かの声が聞えザバっと引き上げられた。

「安積さん!大丈夫!?」
「ゲホ!…はあ、はあ!し、死ぬかと思った」

ゼーハー息を整える、目の前には鳳君の胸筋。視線が釘付け。
しまった、もうちょっと溺れて人工呼吸までこぎつければよかった。
バカバカ!私のバカ!ポカポカ頭を叩いていると、鳳君が部活仲間をキッと睨んだ。

「日吉!何するんだ、おぼれるところだっただろ!」

ひ、日吉か、私のことを葬り去ろうとしていたのは。
ツンツンキノコはお詫びの言葉どころか、

「勝手にコイツがおぼれたんだろ」

信じがたい言葉が飛んできたので、ボールをキノコにめがけて投げた。
クリーンヒットした…が、そこからは互いにむきになり応酬の嵐。
せっかくの青い海だってのに取っ組み合いの喧嘩なんかしちゃったわ。

「も〜!二人とも〜」

行き交うビーチボールの真ん中で鳳君があきれ顔をしていた。

***********


マネージャーと後輩の騒ぐ声を背に海から上がる。
思っていたほど冷たくはなかったが、長時間海水に浸かっているとさすがにつらい。
もともと体温が高い方ではないので尚更かも。
ビーチ脇に備え付けられているタオルを手に取った。
さすが日本屈指のリゾートホテル、タオルの分厚さが贅沢仕様。
パラソルの下、ラタンのビーチベッドで優雅に本を読む跡部、その隣には樺地が控えている。
日本の海も跡部にかかれば南仏のリゾート。
水滴がついた眼鏡をタオルで拭きながら跡部へ尋ねる。

「泳がへんの?」
「今行くとアレを蹴散らしたくなるからいい」

文字を追う視線はそのまま、沙穂たちを指す。
沙穂の顔にビーチボールが直撃して沈み、鳳がギャー!と声を上げる。

「だ、大丈夫かいな」
「うるせえな、アイツら」
「まあ、楽しそうやしええやんか」

沙穂と日吉が取っ組み合いの喧嘩を始めた。
その周りでは岳人とジローが”やれ、そこだ!”と二人にヤジを飛ばす。
ヒートアップする沙穂と日吉をダブルス1が止めに入る。
鳳に羽交い絞めにされた沙穂の胸元がたわわに揺れた。

「目のやり場に困るわぁ」
「鼻の下が伸びてるぞ」

横顔に冷たい視線が突き刺さる、振り払うように眼鏡をかけた。

「すぐそこで揺れてるんやもん、見てまうやんか。自然と追ってしまうやんか」
「知らねえよ」

真っ青な空と海に映える白いビキニ、胸元にふわっとフリルがついていてとても可愛い。
手足がすらっと華奢に見えて、とても好み。
しかし、ホルターネックやからちょっと心配になったりも。え?
そりゃ、まあ、その”おりも政夫的ハプニング”昭和のアイドル水泳大会のハプニング。
沙穂を目でしっかと追いながら、しかし悟られぬよう世間話を始める。

「跡部、ここにはよく来るん?」

ここは、東京からわりと離れた所にある跡部グループのリゾートホテル。
南仏をイメージして作られた、とかいう全室スイートタイプのラグジュアリーなホテル、らしい。
うちの姉ちゃんがめちゃくちゃ羨ましがっていたから有名なんやろ、知らんけど。
跡部はページをめくり答えた。

「いいや、ここに来たのは初めてだ」
「そうなんや」
「去年の休暇はコートダジュールだったからな」
「そら豪勢なこった」

ふと、跡部の読んでいる本に目が留まった。

「珍しい、賢治かいな」

銀河鉄道の夜だ。
跡部が童話を読んでいるのが信じられない。
いつも小難しい洋書か海外ミステリー、戯曲の原文を読んでいるイメージが強い。
宮沢賢治の世界観と真逆のところにいる男のように思える。
それに…このリゾート感溢れるビーチでチョイスする本か?と首をひねる、跡部はそれを見逃さなかった。

「特に意味はない。毎年、この時期に読み返すと決めている。それだけだ」
「ふぅん。そういえば夏の話やったな」

記憶の中から銀河鉄道の夜を引っ張り出す。
登場人物が”今は秋である”と言ったりするが、作中に出てくる「銀河祭り」のモデルが賢治の故郷の盆行事である、と何かで読んだ。
銀河鉄道の停車駅も白鳥、ワシなど夏の星座だ。

「サソリの赤い星、アンタレスは夏の一等星だぜ」
「そうや、サソリの火や」

焼けて死んだバルドラの赤いサソリ。
印象に残っているエピソードだ。
夏の風が吹いた。
見上げた空は高かった、空気が違うせいか空の青が澄んでいる気がする。
こりゃ星も綺麗やろな、夏の星座を想像して、はたと気が付いた。
隣には跡部、そのまた隣には樺地。
リゾートビーチで男ばかりで宮沢賢治について話している。
冷静に考えると…ものすごく不毛だ。
すぐそばで可愛いあの子がまぶしい姿ではしゃいでいるというのに。
さっさと話題を変えようと、海岸線を目でなぞる。

「向こうの方は海水浴場なんやな」
「ああ」

少し離れたところにカラフルなパラソルや浮き輪の群れ。
海の家があり、海水浴客でにぎわっている。

「行ったことある?」
「いいや」
「行ってみようや」

俺は立ち上がる。
夏の熱に浮かされる場所へと跡部を誘う。

「たまには騒がしい海もええやん」

海で沙穂たちがしぶきを上げて笑っている。
キラキラ光る水面を目を細め、跡部も笑う。

「まあな」

読みかけの本を閉じ、立ち上がった。


**********


アスファルトが熱を上げ、揺らめいている。

ビーチサンダルが溶けそうだ。
ホテルを出て、太陽が容赦なく照り付ける海岸線を大人数で歩いた。
駅方面に歩くにつれ、サーフィンボードを持ったガタイのいい兄ちゃんや、きれいな足を惜しげもなく晒したギャルたちでギラギラが増す。
ずらりと並んだ海の家は、しゃれた酒瓶が並ぶカフェ&バー風の若者向けのものが多く、重低音のノリのいい音楽が聞こえてくる。
鮮やかなブルーやグリーンのトロピカルドリンクを持ったお姉さんたちが、”映えだ、映え”だと自撮りにいそしんでいる。
海水浴客の浮足立った雰囲気に俺たちも心が弾んだ。
隣の沙穂へと視線を移すと、羽織ったパーカーからのぞく胸元や、おくれ毛がふわりと揺れるうなじに心が焼ける。
はしゃぐ横顔に、手をつないで歩きたいな、と思う。
部活仲間とわいわい楽しいのもいいけど、二人きりの夏の海も最高やろうな。

「あ、私ここ来たことあります」

ハワイアン風な海の家を見て沙穂が立ち止まった。
「ほんまに?」と俺が尋ねると、彼女はうなずく。

「はい、去年家族で」
「今の今まで気づかなかったのか?」

呆れ顔の跡部に沙穂は頭をかく。

「だって、車の中で寝てたし…ここがどこの海なのかよくわかってなくて…」

集合が早かったからか、沙穂はジローと行きの車中で爆睡していた。

「このかき氷を見て思い出したの。おいしかったんだよね」

ボードに書かれているかき氷のメニュー写真をまじまじと見つめる沙穂。
色とりどりのかき氷に岳人も目を奪われたようで、

「うわぁ、うまそうだなぁ。俺も食おっかな」
「この虹色のやつが可愛くておいしいんですよ」
「すっごい色だな」

レインボーカラーのかき氷にうなる岳人。
鳳が”シェイブアイスだね、ハワイのかき氷だよ”と言い、フワフワで美味しいよね、と付け加えた。
姉貴がいるからか、意外とスイーツについて詳しい。

「”海の家”ってなんだ?」

跡部が目の前の建物を凝視している。
セレブというのはいちいち面倒くさい、何でもない海水浴場の一つ一つが驚きの連続で、立ち止まっては”これは何だ?”と尋ねてくる。
沙穂はバカにしたような目で跡部を見た。

「え〜?跡部”海の家”も知らないの〜?」

跡部はムッとしてを睨みつけた。これはよくない。
それでも沙穂は一応説明をしてやる。

「”海の家”っていうのはね、食べ物や飲み物を売ってたり、着替える場所やシャワーを貸してくれたりするの」
「シャワー?ここで?」

跡部はいまいちピンとこない様子。
そりゃそうやな、跡部坊ちゃんはあの簡素な小屋でシャワーを浴びるっていうのが想像できへんのやと思うで。
沙穂は笑顔で続ける。これまたよくない笑顔で。

「で、一つ教えてあげる」
「なんだよ」
「海の家に入る際には決まりごとがあって」

決まりごと?と首をかしげる跡部。

「ジーク・ジオン!」

いきなり”ジオン万歳!”と叫んだ沙穂。

「こうやって挨拶しないと海の家に入っちゃいけないのよ」
「本当か?」
「うん、ルールというより礼儀ね、マナー」

いぶかし気に俺たちへ視線を移す跡部。
俺たちは全員、目を逸らす。
そんなルールもマナーもあるわけがない。
でたらめを教えるにもほどがある。
でも少し見てみたい気もする、ジオン公国民な跡部を。

「だったら、お前ら見本を見せてみろよ」

は??突然巻き込まれ、口を開ける。

「ほら」

海の家へ入るよう促す跡部、俺たちは…顔を見合わせ、沙穂を見た。
両手を合わせ、口裏を合わせてくれ、と頼み込んでいる。

「ウソですよ、跡部さん。こいつの言うことなんて信用しない方がいいですよ」

なんの躊躇いもなく日吉が沙穂を売った。

「わあ!日吉の裏切りもの!」
「どうして俺たちがお前のバカげたウソに付き合わなきゃいけないんだ」
「安積…」

跡部が、沙穂の襟首を掴み、ズルズルと浜辺へ引きずる。
足をばたつかせ、必死の抵抗の沙穂。

「わわわわわわ!跡部しゃあん!話せばわかる!とりあえず腹割って話そうよ!」
「樺地、ここに穴を掘るぞ」

人でにぎわうビーチのど真ん中を指さし、跡部は言った。
さすがの樺地も返事に窮していると、信じられないことを口にする。

「コイツを埋めるんだ」
「いや〜!跡部様!お助けを!」
「安心しろ、息ができるように顔だけは出してやる」
「もっとイヤ〜!」

”ハハハハハ!”と高笑いで沙穂を見下ろす。
何の騒ぎだと、二人の周りに人が集まりだした。
俺たちが他人のフリをしようと覚悟した時、

「何をやっとるんだ貴様ら!」

喝!ビーチがビリッと震えた。
聞き覚えのある声だ、一度聞いたら忘れられない、迫力のある声。
いや、まさか、こんなところで…と、振り返れば奴らがいた。

「何を騒いどる!」

腕を組んだ真田を筆頭に、知った顔の男たちが8人。
日に透けそうな色白の男、幸村が手を振る。

「安積さん、久しぶりだね」

立海大付属テニス部の面々が立ってた。



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